地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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19:46:14
 メディア戦略家・境治さんの「このままでは日本のコンテンツ産業もガラパゴス化してしまう」を読んだ。境さんにお目にかかるとこういったテーマで意見交換することも多く、「国内市場がシュリンクする中で映像コンテンツは海外展開しないとマズいんじゃない?」という主張には同意する。一方、私自身がここ数年、日本のテレビ番組海外展開の歴史的経緯を調査していることもあって感じるのは、日本のコンテンツのガラパゴス化は決して新しい問題でも想定外の状況でもなく、国際流通力が弱い内容にせよ、売り方にせよ、当然の帰結なのではないかということである。以下、日本の代表的な映像コンテンツであるテレビドラマを中心に記す。
 日本のテレビ番組が初めて海外に販売されたのは、記録を調べた限りでは1960年である。その当時、草創期にあった日本のテレビ関係者は自分たちの作った番組が海外で(特に欧米で)どのような評価を受けるか非常に興味があり、積極的に国際コンクールに出品し、受賞作には海外から購入の申し入れが来ることもあった。しかし、テレビ局が番組を海外に出す場合、商業ベースというよりは国際文化交流を目的として行うことが一般的で、番組交換という形を取ることも多かった。
 しかし、「ビジネスとしての海外番組販売」という発想がなかったわけではない。例えば1960年中盤、某キー局の社長は経営施策の1つとして「世界市場の開拓、そしてそのための製作・販売体制の検討」を掲げている。約半世紀も前に海外を市場として強く意識していた点は注目に値するし、今日でもよく指摘される課題、つまり、海外市場で番組を販売するためには日本でヒットした作品をそのまま売りに出すのではなく、現地の嗜好にあった作品を企画・製作する必要性があることに着目していた点は慧眼である。同時に、その課題が今日まで50年という長きにわたって改善されずにいるとすれば、その原因は「何らかの理由で改善することができない」か「そもそも改善する気がない」のどちらか(あるいは両方)ということではないかとも考えられる。
 1970年代になると日本の番組ブームがアジアの一部で起きる。タイでは一時期、放送番組の30%が日本からの輸入番組だったし、香港では日本のドラマが大人気で、特に『Gメン'75』が放送される夜は「香港の街から麻雀の音が消える」とまで言われた。しかし、これらの輸出実績に日本のテレビ局はほとんど関わっていない。アジア諸国に出されたドラマの多くは映画会社がフィルムで作る「テレビ映画」で、厳密には映画の一種であり、テレビ局がVTRで作る「テレビドラマ」とは海外に販売する際の権利処理が全く異なる。テレビ番組の2次利用に係る権利処理の煩雑さは非常に有名だし、境さんの記事でも言及されているが、対照的にテレビ映画の場合は非常に簡素化されている。劇映画が下火になる中、映画会社は新たな収入源の1つとしてテレビ映画の海外への販売に乗り出していた。
 ではテレビ局は何をやっていたのか。国内のテレビ産業が急成長し、広告市場の急拡大によって国内放送に伴う収入だけで十分な利益が生まれるようになる中、権利処理が面倒な上に確実な収益が期待できない海外番組販売に必然性を見出せなくなっていた。その後も1990年頃まではテレビ番組を海外に販売する際のルール(権利者にいくら支払うかなど)も決まっていなかった。
 1980年代には、改革開放路線を歩み始めた中国で日本のテレビ番組の人気に火が付き、山口百恵の『赤い疑惑』(これもテレビ映画)は社会現象になっている。この頃、中国に入ってきた日本の映像作品に描かれた物質的豊かさや生活様式は中国人を魅了し、中国人の日本および日本人観の好転に寄与したと言われる。日本側にすればほとんど儲けはなかったと思われるが、中国の潜在市場に期待する日本企業が提供する形で1980年代には40本弱のドラマ作品が中国で放送された。また、恐らく今日でも世界的に最も有名な日本のドラマである『おしん』は1980年代中盤以降、政府開発援助によって多くの国に無償頒布され、シンガポール、タイ、中国、イランなどでは実に80%近い視聴率を記録した。
 コンテンツビジネスという視点から見ると、その当時のアジアは収益性も低く、全く魅力に乏しい市場だったと思うが、現地の人々は日本のドラマに熱狂し、欲した。彼・彼女らにとってはそれがテレビ映画だろうとテレビドラマだろうと面白ければ良いわけで、どういうルートで入って来たかもどうでもいい話である。「日本は面白いドラマを作る国」という認識は広くアジアの視聴者に共有され、「日本のドラマ」の価値は「日本の電化製品」や「日本の車」のように高かった。国際マーケティングでいうところの「原産国効果」が発揮されていたわけである。
 1990年代になると台湾や香港を中心に『東京ラブストーリー』、『ロングバケーション』など、日本の若者向けドラマが大人気となった。その頃には国内のドラマ制作の主流は完全にテレビ映画からテレビドラマに変わり、海外に出される際もテレビ局主導が一般的になっていた。1960年代に局上層部によって描かれた海外展開のビジョンがようやく現実のものとなったわけである。テレビ局にすれば売り手市場で、特に販売努力をしなくても、それまでのアジア市場では考えられなかった値段で面白いように売れた「日本ドラマ・ブランド」の最盛期である。ところがその後、2000年代になり、日本のドラマはアジア市場で急失速する。内容も利便性も悪く、コストパフォーマンスが低いという評価が定まってしまった。通常、高価値なブランドは多少値段が高くても売れ続けるものだが、「日本ドラマ・ブランド」はそうではなかったということになる。
 今日でも台湾は日本のテレビ番組にとって最大の市場で、日本の番組を専門とするテレビチャンネルも3つある。2月に台湾で調査をしたのだが、日本のドラマは1990年代や2000年代初頭のものに比べて、夢がない内容のものが多く、台湾の視聴者受けしそうもないものが増えたという話を聞いた。そこでも「もう少し海外の視聴者が喜びそうな内容のものを作った方が良いのではないか」と言われた。最良の顧客にさえも質的に問題ありと思われているのが、今日の「日本ドラマ・ブランド」なのである。
 でも現実には、海外の視聴者の好みを反映した作品作りは言うほど容易ではない。ドラマに限らず、日本の番組は日本の視聴者に受け入れられることを第一義的な目標にして作られており、最も日本の視聴者が好みそうな題材・演出が盛り込まれている。今日、夢がないドラマが日本に多いとすれば、そういった内容を日本の視聴者が望んでいると製作者側が判断していることの現れだろう。海外の視聴者の好みを考慮し、もしも日本での視聴率が悪くても海外への販売で稼げればいいという発想で作られている番組は(あれば面白いとは思うが)寡聞にして知らないし、そもそも「海外」と一口で言っても国によって好みは千差万別で、どこに合わせるかという問題もある。
 極論を言うと、どこの国でも自国市場の視聴者の好みを熟考して番組を作っている点は昔も今も変わらないと思う。しかし、そのようにして作られたものの中に他国の視聴者にも面白いと思われ、訴求する要素がある作品もある。『赤い疑惑』も『おしん』も『東京ラブストーリー』も日本での放送用に作られたものだが、たまたま海外の視聴者にも同じように面白いとか魅力的に思える点があった。そして、そういった要素が今日の日本のドラマには減ってきているということなのかもしれない。そのように考えると、日本人視聴者のテイストが他国の視聴者と乖離したことが番組内容のガラパゴス化の根底にあるようにも考えられる。
 実際問題として、上記のように、ドラマの内容を海外市場に合わせることは難しいと思われるが、売り方を海外市場に合わせることは可能に思える。例えば、判で押したように必ず日本のドラマの弱点として挙げられる話数の少なさ(全11話くらい)だが、それはテレビ放送での編成を前提に考えるからであって、動画配信で見るには適切な話数にも思える(Netflixオリジナルドラマだって全13話が多い)。話数も「海外ではもっと長いシリーズが一般的だから、それに合わせて増やそう」などというのは非現実的で、日本様式のフォーマットのドラマをどのように海外で流通させれば効果的かを考えるべきだろう。日本のドラマは若い視聴者を想定して作られているものが多いのだろうから、採算性さえ合えばネット配信を重点的に行ってもいいように思う。その方が、違法動画対策にもなる。
 あと実は、日本のドラマの海外展開における生殺与奪を握るのはテレビ局というよりも出演者である。彼・彼女たちが同意しないと販売できないこともさることながら、作品プロモーションにおいても非常に重要な役割を果たす。先述の台湾の日本番組チャンネルでは深田恭子主演のドラマの放送を売り出していたが、彼女は同チャンネルのウェブで流す動画メッセージなど、番組プロモーションに非常に協力してくれたそうだ。
 一方、事務所の方針かもしれないが、そのような面で全く非協力的な人もいる。境さんも書いていたが、特に海外市場の場合、知っている俳優が出ていることは視聴選択の要因になりやすい。俳優側にしても、ドラマがヒットすれば海外での活躍の場を拡げられる良い機会だと思うのだが、全くそういった志向・意識がない人たちが日本のドラマや番組に主役級として数多く出演していたりする。それらの番組の日本での人気は高く、高視聴率が期待できるからテレビ局は喜んで製作・放送するが、様々な制約が課されるから国際流通力は弱い。番組ガラパゴス化には出演者の内向き志向も作用しているのである。
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21:38:56
 前々回、そして前回のエントリーで、私が勤務する大学の学生を対象に行った有料動画配信サービスに関する調査結果を紹介してきた。大多数の学生がサービスに契約しておらず、下の図2にあるとおり、その理由は様々であるが、今回は未契約の理由として同数6位(31人)である「よくわからない」と「興味がない」、7位(19人)の「見たいコンテンツがない」に関連して思うところを記す。

図2

 ある有料動画配信サービスがあるとして、詳細はともかく、少なくとも認知されていることが、ユーザーに選ばれる上での必要条件であることは言うまでもない。206人の学生にNetflix、Hulu、Amazonプライムビデオ、dTV、U-Nextをそれぞれ知っているか尋ねたところ、最も知られていたのはHuluで147人(71.4%)が「知っている」と答え、次いでdTV(130人、63.1%)だった(図8参照)。なぜそれらを知っているのかは問うていないが、HuluはTV CMなどの広告、dTVはNTTドコモとの連動で見聞きする機会が多いことが影響しているのかもしれない。

図8

 一方、HuluやdTVに比べるとNetflixは知られておらず、56人(27.1%)どまりだった。Netflixが日本への上陸を発表してから1年あまり、そして、実際にサービスを開始してから7ヵ月が経った。その間、Netflixは常に有料動画配信サービスの話題の中心だった感があるが、実は「黒船襲来」と大騒ぎし、その動向に目を光らせてきたのはメディア関係者、それにイノベーターやアーリーアダプターと分類される先駆的な消費者がほとんどで、それ以外の人々は依然としてキャズムの向こう側にいるどころか、Netflixを知りもしないのではないかという気もしてくる。
 それにしても、前々回のエントリーで見たように、経済的・時間的制約の中でNetflixと契約している大学生が多くないことは予想できたものの、知名度の低さは意外な感じがした。Netflixは彼・彼女らの情報アンテナには引っかからないということだろうか。いずれにせよ、このままでは彼・彼女らが有料動画配信サービスの契約を検討する時が来ても、Netflixというブランドは想起されないため選択肢にならず、HuluやdTVと比較・検討されることすらない可能性もある。
 続いて206人の学生にNetflix、Hulu、Amazonプライムビデオ、dTV、U-Nextの中で関心があるものを複数回答可で尋ねた。最も関心が高かったのは、Huluの72人(35%)で、以下にdTV(28人、13.6%)、Netflix(22人、10.7%)、Amazonプライムビデオ(21人、10.2%)と続いた(図9参照)。認知している学生の数同様、関心がある学生の数でもHuluが他を凌駕しており、知っている学生たちの間での関心度(関心者数/認知者数)も49%と高い。一方、dTVは関心度が21.5%で、比較的知られている割には関心を持たれていない印象を受けた。

図9

 Netflixは先述の通り、あまり認知されていないものの、認知している学生に関心を持たれている割合(39.3%)はHuluに次いで高かった。より多くの学生に知られるようになれば関心度もさらに上がるのか、あるいは、関心を持ちそうな学生の多くには既に一通り知られているので関心度の伸びは期待できないのかは興味深いが、現在のNetflixのコンテンツを考えると、後者の可能性も否定できないと思う。
 Netflixは多様なコンテンツを揃えてはいるが、なんといっても白眉はオリジナルコンテンツだろう。その代表格である”House of Cards”や”Orange is the New Black”には私もハマったが、同時に、それらの作品はアメリカの社会なり文化なりにある程度通じていないと、その価値を十分に享受できないようにも思えた。文化的割引(Cultural Discount)が作用するのである。Netflixは積極的にグローバル展開を進めているが、オリジナルコンテンツに関してはアメリカ国内で受けることを最優先に作られているような印象を受ける。逆に、世界中で受けることを狙って作ったら、あれほど濃い内容のものは作れないだろう。私見ではあるが、それゆえに、海外市場重視で普遍性追求と引き換えにアメリカ人のツボを忘れつつあるハリウッドの大作映画や、放送コードでがんじがらめのテレビシリーズに不満を感じていた人々に熱烈に支持されたという面は確かにあると思われる。
 一方、今回の調査に参加した学生のコンテンツ嗜好を知るため、好きなテレビ番組のジャンルを尋ねると、人気が高かった順にアニメ(73人)、バラエティ番組(57人)、音楽番組(45人)となった(図10参照)。多くの学生にとってはアニメと言ってもオタク受けする深夜アニメ、音楽と言っても聴くのはJ-POPばかりというように、(日本の)という但し書きが付くと考えていいだろうし、お笑い芸人によるトーク中心のバラエティ番組に至ってはドメスティック・コンテンツの極みである。

図10

 「今の若者は内向き志向で、海外に興味がない」という紋切り型の批判には全く与するつもりはないが、日々大学生と接していて、ことコンテンツ消費に関しては日本のモノばかりを好んでいるように感じられるのは事実だ(まあ、それだけ日本のコンテンツが彼・彼女らに訴求するようにうまく作られていることの証左だとも思うが)。日本のアニメやお笑い好きの大学生はNetflixのオリジナルコンテンツに魅力を感じるだろうか。あまり親和性は高くなさそうというのが私の見立てだが、あくまで憶測の域を出ないので、一度試写でもやって感想を聞いてみたい。

21:30:04
 前回のエントリーで、私が勤務する大学の学生を対象に行った有料動画配信サービスに関する調査の結果を紹介した。206人中188人が契約していないことがわかったが、未契約の理由は多岐にわたっていた(図2参照)。前回に引き続き、今回は理由の5位となっていた「レンタルビデオで十分」(37人)を考えてみたい。

図2

 有料動画配信サービスはアメリカではケーブルテレビなどの有料テレビ離れを引き起こし、日本ではテレビ離れの誘因となりうる可能性が指摘されるが、より代替的な関係にあるのはレンタルビデオサービスであると考えられる。例えば、元々NetflixはレンタルDVD業者で宅配を売りにしていたが、2007年にネット配信を始めた。それ以降、契約者数は急増し、結果的に街のレンタルビデオ業は打撃を受け、一時は全米の至る所で店舗を見かけた最大手のBlockbusterは2010年に倒産に追い込まれている。2013年から14年にかけて住んでいたニューヨークではレンタルビデオ店を見かけた記憶はなく、スーパーマーケットの一角にDVDレンタル機のようなものがあったことを覚えている。
 私は有料動画配信サービスの話をする時、レンタルビデオ業を引き合いに出すことが多いのだが、両者を比較した場合、前者の優位点はいくつも述べられるのに対して、後者の優位点はなかなか思いつかない。せいぜい「パッケージを手に取れる」とか「店の雰囲気が好き」、「店員と話せる」くらいだろうか。いずれにせよ、前時代的なサービスと言う印象は拭えない。
 ところが、上記のような「レンタルビデオで十分」という意見にも見られるように、私が日々接している大学生にはレンタルビデオユーザーが多い。実際に今回の調査への回答者206人中153人(74.3%)がレンタルビデオの会員であり、有料動画配信サービス契約者(206人中18人、8.7%)とは比較にならないくらい多いことがわかる。有料動画配信の契約に「カネも時間もないし…」といった態度をとる一方で、レンタルビデオの会員ではあるというのはなかなか不思議ではある。下の図6にある通り、レンタルビデオ会員の利用頻度は数か月に1回が63人(41.2%)、月に1~数回が56人(36.6%)で大部分を占め、多くはそれほどヘビーユーザーというわけではなさそうではあるが、レンタルビデオは大学生にそこそこ浸透していると言えるだろう。

図6

 果たして彼・彼女たちはレンタルビデオに対して不満はないのだろうか。不満として考えられそうな選択肢から最大2つまで選ばせたところ、圧倒的に多かったのは「店へ行くのが面倒」で126人、次いで「借りている期間内に見なければならない」(82人)、「家から遠い」(53人)、「貸し出し中であることが多い」(31人)と続いた(図7参照)。言うまでもなく、家に居ながらにして楽しめ、自分のペースで視聴できる有料動画配信であれば、それらの不満は全て解消される。こういった点を私が講義などで指摘すると、少なくない学生が「言われてみればそうだ」といったような感想を述べる。有料動画配信サービスのレンタルビデオに対する優位点が彼・彼女らにほとんど伝わっていないということである。

図7

 意外だったのは、レンタルビデオに対する不満として「料金が高い」を挙げたのは22人だったことである。実際に私の勤務する大学の近所のレンタルビデオ店の料金体系を見てみると、新作が2泊で200円、旧作が7泊で180円となっている。都度課金なので利用頻度によってはそれなりの出費にもなりそうであるし、返却が遅れれば延滞金も発生するわけだが、多くの学生には必ずしも高いとは思われていない。有料動画配信サービスの未契約理由として「カネがない」を挙げた学生が180人中78人いたことを併せ考えると、彼・彼女たちの価値観や金銭感覚がよくわからなくなるが、レンタルビデオの利用に対して慣性が作用し、スイッチを阻害しているのかもしれない。
 大学生という潜在市場を開拓するためには、多くに利用されているレンタルビデオから有料動画配信サービスへのスイッチを促すことは重要だと思うが、相対的な利便性の高さやコストパフォーマンスの高さを強調するプロモーションはあまり行われていないか、行われていても、ターゲットにきちんとリーチしていない可能性がある。
 次回のエントリーでは、契約しない理由6位の「よくわからない」、「興味がない」を考察してみたい。

21:32:18
 4月初頭といえば、進学や就職などで新しい生活を始める若者が多い時期である。同時に、「大学生(社会人)になったんだから…」と新たに何かを始める人も多く、各種サービスの契約件数に大きな変動が出やすい時期でもある。昨年秋、NetflixやAmazonプライムビデオなど、海外の主要な有料動画配信サービスの日本進出が相次ぎ、また、民放各局もコンテンツ配信に積極的な姿勢を見せ始めている中で、有料動画配信サービスの契約件数も増加が期待されるのではないだろうか。
 ネットでの動画視聴に関しては、昨年の電通総研の「動画視聴に関するWEB調査」やNHK放送文化研究所の「日本人とテレビ2015」の結果から、特に若年層に完全に定着していることは明らかだ。一方、有料の動画視聴となると、昨年秋のニールセンの調査では無料のものに利用者数で大きく水をあけられていた。アメリカでは、それまでのテレビ視聴の基本だったケーブルテレビ契約経験がない若者(いわゆるcord nevers)が、同じカネを払うならリーズナブルなNetflixなどの動画配信サービスを選んだと言われるが、それとはメディア環境が異なる日本の若者のどれくらいが有料動画配信サービスに関心を持ち、また、実際に契約しているのかはよくわからない。Youtubeやニコ動を延々と見ているような若者に果たしてNetflixやHuluは魅力的なサービスとして映っているのだろうか。
 一方で、アメリカであれ日本であれ、有料動画配信サービスにとって最も取り込まなければいけない層が当然、若年層であることは間違いない。テレビとともに育ってきた中高年が今でも比較的よくテレビを見ているように、メディア利用はコーホート効果の影響を受けやすい。有料動画配信サービスの契約の伸びが期待できそうなこの時期に、デジタルネイティブで、今後もネットでの動画視聴に愛着を持ち続ける可能性が高い若年層を取り込めていないとすれば問題である。
 実際のところ、重要な潜在市場である大学生たちの有料動画配信サービスに対する態度はどのようなものだろうか。以下では私が勤務する大学の学生を対象に行った調査結果を参考にしつつ、考えてみたい。回答者の属性は、関西の中規模私大でメディア系の講義を受講していた2年生以上のうちの希望者で、質問票の回収は206(男116、女90)だった。回答した学生にはインセンティブとして成績評価への加点を行っている。地方大学でメディア関連の講義を受けている学生が回答者であり、便宜的なサンプルから得られたデータなので、日本の大学生に一般化するのは困難である点は留意したい。
 まず、代表的な有料動画配信サービスとして選んだNetflix、Hulu、Amazonプライムビデオ、dTV、U-Nextのうちのどれかと実際に契約しているか尋ねた。下の図1にあるように契約者は少なく、206人中18人(8.7%)に過ぎなかったが、2つのサービスと契約している学生が2人いた(2人ともAmazonプライムビデオとdTVの併用)。

図1

 次に、未契約者188人を対象に、契約しない理由として考えられる選択肢の中から最大3つまで選ばせたところ、図2にあるように、圧倒的に多かったのは「無料動画サービスで十分」(122人)というものだった。「動画は無料で楽しめているから、別にカネ払ってまでは見たくない」というのは、Youtubeやニコ動慣れした日本の若者らしい。多くの大学生にとって「コンテンツ視聴は無料で楽しむモノ」というのが基本になっているようでもある。また、無料動画サイトには違法にアップロードされた動画が存在することは多くが知っているだろうが、「違法だから視聴をやめよう」という人は少ないだろうし、いわんや「カネを払ってでも違法じゃないコンテンツを見よう」などという殊勝な人はもっと少ないだろう。

図2

 次点は「カネがない」(78人)という、ある意味で大学生らしい理由だった。契約者も含めて、「月にいくらくらいなら動画配信サービスに払ってもよいか」尋ねたところ、下の図3にあるように、多かったのは「500円程度」(63人)や「1,000円程度」(39人)だった。実際にはdTVは月額500円だし、Amazonプライムビデオは年会費3,900円だから均等割りすれば月325円で、彼・彼女らの支払い希望額内に収まる。現実に動画配信サービスがいくらで提供されているのか知られていないように感じられたが、それは調べればすぐにわかる。結局は相場価格、さらにはサービスに対する関心の低さの現れとも考えられる。先に見たように、サービスに契約しない理由として「カネがない」を挙げるものは多かった。月に100円から300円くらいであれば、多くの大学生が躊躇いなく払える額だとは思うが、仮にそれくらいの額で提供されるサービスがあったとしても、そもそもサービス自体に関心がないのであれば、契約には結びつかないだろう。そう考えると、大学生にとって動画配信サービスは廉価だからという理由で契約するというものではないのかもしれない。

図3

 図2に戻って、契約しない理由の3位は「テレビ放送で十分」(50)、4位は「契約しても見る時間がない」(43)だった。若者のテレビ離れが指摘されて久しいが、「テレビ視聴時間」と「テレビ視聴の好意度」を尋ねてみると、学校やバイト、遊びなどに忙しい中で164人(80%)が1日1~3時間はテレビを見ており、156人(75.7%)がテレビ視聴に「すごく好き」、「好き」と好意的だった(図4・5参照)。メディア利用とは突き詰めて言えばカネと時間の消費であり、そこから得られそうな効用を加味して決められることが多い。今回の調査対象である大学生の多くは無料でそれなりに楽しめ、時間潰しにもなるテレビ視聴にはある程度満足しており、それに無料動画の視聴を合わせればもう腹いっぱいで、それ以上は「見る時間もないしカネの無駄かな…」という考えに至るのかもしれない。

図4

図5

 契約しない理由の5位以降も興味深いが、長くなるので次回のエントリーで考察する。

19:20:20
 今秋Netflixが日本でサービスを開始することが公表されて以来、国内でNetflixが論じられることが目に見えて増えた。以前に記事(「世界展開を加速させるNetflixは日本に来るのか?」)に書いたように、Netflixはここ数年、アメリカ国内での成長が鈍化する中で、海外市場開拓に力を入れてきた。日本市場はその1つだが、Netflixの海外展開に関して本国アメリカで話題なのは、ちょうど国交正常化交渉が始まったキューバ(日本と同じ頃に進出を発表した)や、ハリウッドにとって最も重要な海外市場となりつつある中国に今後どう入っていくかで、それらに比べると日本進出はあまり注目されていない印象を受ける。そもそも、アメリカのメディアの扱いを見ていると、数年前まで加熱していたNetflix関連のニュースは鎮静し、その代りにケーブルテレビを中心とした有料テレビ界の再編により多くの関心が向けられるようになっている。
 日本でNetflixが紹介される時、よく耳にするのが「アメリカは元々有料テレビの契約率が高かったが、Netflixのような動画配信サービスが台頭してきたため、有料テレビ契約者が減った」という話だ。実際には、有料テレビといっても大きく分けてケーブルテレビ、衛星放送、IPTVがあり、その中で最も古くて契約世帯数も多いが、料金が高くてサービスの質が低いことで悪名高かったケーブルテレビから人々が離れ始めているというのが真相に近い。この辺りの経緯は2年前に記事「アメリカのテレビ環境:ノーモア・ケーブルテレビ?」に書いたとおりで、状況はそれほど急変していないと思う。
 ただ一方で、大手ケーブルテレビ各社は動画配信サービスの台頭の前に為す術もないかというと、そうではなくて、むしろ合従連衡を通して新たな道を模索している。事の発端は、1年2か月前に発表されたケーブルテレビ業界1位のコムキャストによる2位タイムワーナーケーブル(TWC)の452億ドルでの買収である。ケーブルテレビ業者は元々、各地域の小規模な事業者で、コムキャストも約50年前にミシシッピ州で誕生した零細事業者の1つだった。半世紀前にわずか1,200だった契約世帯数は、もしこのTWC買収が成功すれば3,300万になり、コムキャストは巨大な市場支配力を有することになる(関連記事「世界最大級メディアの誕生は消費者のためになるのか?」)。この合併計画が発表された当初、ちょうどアメリカにいて、大きな騒ぎになっていることを感じたのだが、それでも、1990年代以降にアメリカ・メディア業界で起きた数々の買収・合併を思えば、結局は「資本力のある企業が質の高いサービスを提供することこそ公共の利益に適う」などと承認されるのではないかと思っていた。
 それから1年2か月が経ったが、コムキャストのTWC買収に関する審議は依然として継続中である。その一方で、コムキャストのTWC買収発表から3か月後には、アメリカ最大手の電話会社で先述のIPTVを展開するAT&Tによる衛星放送1位のディレクTVの485億ドルでの買収案が公表された。有料テレビ契約世帯は約2,600万で、コムキャスト+TWCの3,300万世帯には及ばないものの、買収額としてはこちらの方が若干大きい(昨年末の有料テレビ各社契約数は下図参照)。

無題

ただし、こちらも発表から1年が経とうとしているが、いまだ承認はされていない。コムキャストもAT&Tもアメリカ映像メディア界の勢力図を大きく塗り替える大型買収案件だが、非常に面白いのは、両者に対する世論の厳しさが全く異なる点である。
 3月17日のロイターの記事「AT&T-DirecTV merger escapes heat as all eyes on Comcast」によると、連邦通信委員会(FCC)にせよ司法省反トラスト局にせよ、コムキャストの買収案件にはAT&Tのそれと比較にならないくらい神経を尖らせているが、それはアメリカ市民の関心の度合いがまるで異なるからである。実際、FCCへ届いた買収反対の嘆願書はAT&T案件が5であるのに対してコムキャスト案件は20、寄せられた意見はAT&T案件が14,000であるのに対してコムキャスト案件は88,000、そして買収賛成者と反対者を集めた開いたミーティングの数はAT&T案件の70回に対してコムキャスト案件は300回に及ぶ。コムキャストにせよAT&Tにせよ、買収が承認されれば有料テレビ市場を寡占するようになるわけだし、買収額もそれほど差はない。では、なぜコムキャストによるAT&T買収ばかりが問題視されるのだろうか。答えは有料テレビ市場ではなく、インターネット市場における支配力の差にある。
 TWCの契約者を加えると、コムキャストはインターネット契約3,200万世帯という巨大プロバイダーになり、ブロードバンド市場の4割を占めることになる。一方、AT&Tの現在のブロードバンド市場占有率は17%程度だが、衛星放送であるディレクTVはインターネットサービスを行っていないため、買収後も市場シェアが増えることはない。FCCも司法省も市民も、コムキャストのように1企業がインターネットを牛耳ること、そして結果として、コンテンツの流れに巨大な影響力を持つことを懸念しているのである。実際、コムキャストはNetflixに対して強い交渉力を持つ。ネット・トラッフィクの3分の1を占めるNetflixは安定した配信のため、コムキャスト(やAT&Tなどの大手プロバイダー)に対して専用回線使用料を払わざるを得ず、しかもコムキャストはNBCユニバーサルという映画およびテレビ番組コンテンツ製作の大手も傘下に持つため、Netflixはコンテンツ供給をNBCユニバーサルに依存している。Netflixの番組調達における高コスト体質はよく指摘される点だが、コムキャストが交渉力を行使すれば、Netflixのサービスに何らかの悪影響が出ても不思議ではない。
 アメリカの映像メディア界の再編に関してはもう1点、重要な動きが起きている。先月末、チャーターという、現状ではコムキャスト、TWCに次ぐケーブルテレビ3位の会社がブライトハウスという中規模のケーブルテレビ会社を100億ドルで買収すると発表した。3月31日のロイターの記事「Charter beefs up cable muscle with Bright House deal」は、チャーターがこれにとどまらず、5位のサドルリンク6位のメディアコム、7位のケーブルワンにも買収を仕掛け、コムキャスト+TWCに次ぐ巨大なケーブルテレビ会社を目指すだろうと伝えている。それどころか、もしもコムキャストのTWC買収が失敗に終わったら、チャーターがTWCに触手を伸ばす可能性まで示唆しているが、そうなると現コムキャストに肉薄するケーブル会社の誕生である。
 一時期、鳴りを潜めていた感があるアメリカ・メディア業界での統合・再編が再び激化しつつある。1990年代のそれは、例えば放送ネットワークと映画会社などの合併に見られたように、メディア企業内部の大型化・コングロメリット化への希求の中で起きたが、今回は動機が異なり、動画配信サービスという新たな動きに対する有料テレビの対抗策がその引き金になっている。果たして合従連衡は進むのだろうか。その場合、アメリカのメディア政策の中で重視されてきた競争促進や公共の利益とどのような論理で折り合いをつけるのか、興味は尽きない。
 
 

プロフィール

大場吾郎

Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
Twitter:@obagoro

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