地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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19:20:20
 今秋Netflixが日本でサービスを開始することが公表されて以来、国内でNetflixが論じられることが目に見えて増えた。以前に記事(「世界展開を加速させるNetflixは日本に来るのか?」)に書いたように、Netflixはここ数年、アメリカ国内での成長が鈍化する中で、海外市場開拓に力を入れてきた。日本市場はその1つだが、Netflixの海外展開に関して本国アメリカで話題なのは、ちょうど国交正常化交渉が始まったキューバ(日本と同じ頃に進出を発表した)や、ハリウッドにとって最も重要な海外市場となりつつある中国に今後どう入っていくかで、それらに比べると日本進出はあまり注目されていない印象を受ける。そもそも、アメリカのメディアの扱いを見ていると、数年前まで加熱していたNetflix関連のニュースは鎮静し、その代りにケーブルテレビを中心とした有料テレビ界の再編により多くの関心が向けられるようになっている。
 日本でNetflixが紹介される時、よく耳にするのが「アメリカは元々有料テレビの契約率が高かったが、Netflixのような動画配信サービスが台頭してきたため、有料テレビ契約者が減った」という話だ。実際には、有料テレビといっても大きく分けてケーブルテレビ、衛星放送、IPTVがあり、その中で最も古くて契約世帯数も多いが、料金が高くてサービスの質が低いことで悪名高かったケーブルテレビから人々が離れ始めているというのが真相に近い。この辺りの経緯は2年前に記事「アメリカのテレビ環境:ノーモア・ケーブルテレビ?」に書いたとおりで、状況はそれほど急変していないと思う。
 ただ一方で、大手ケーブルテレビ各社は動画配信サービスの台頭の前に為す術もないかというと、そうではなくて、むしろ合従連衡を通して新たな道を模索している。事の発端は、1年2か月前に発表されたケーブルテレビ業界1位のコムキャストによる2位タイムワーナーケーブル(TWC)の452億ドルでの買収である。ケーブルテレビ業者は元々、各地域の小規模な事業者で、コムキャストも約50年前にミシシッピ州で誕生した零細事業者の1つだった。半世紀前にわずか1,200だった契約世帯数は、もしこのTWC買収が成功すれば3,300万になり、コムキャストは巨大な市場支配力を有することになる(関連記事「世界最大級メディアの誕生は消費者のためになるのか?」)。この合併計画が発表された当初、ちょうどアメリカにいて、大きな騒ぎになっていることを感じたのだが、それでも、1990年代以降にアメリカ・メディア業界で起きた数々の買収・合併を思えば、結局は「資本力のある企業が質の高いサービスを提供することこそ公共の利益に適う」などと承認されるのではないかと思っていた。
 それから1年2か月が経ったが、コムキャストのTWC買収に関する審議は依然として継続中である。その一方で、コムキャストのTWC買収発表から3か月後には、アメリカ最大手の電話会社で先述のIPTVを展開するAT&Tによる衛星放送1位のディレクTVの485億ドルでの買収案が公表された。有料テレビ契約世帯は約2,600万で、コムキャスト+TWCの3,300万世帯には及ばないものの、買収額としてはこちらの方が若干大きい(昨年末の有料テレビ各社契約数は下図参照)。

無題

ただし、こちらも発表から1年が経とうとしているが、いまだ承認はされていない。コムキャストもAT&Tもアメリカ映像メディア界の勢力図を大きく塗り替える大型買収案件だが、非常に面白いのは、両者に対する世論の厳しさが全く異なる点である。
 3月17日のロイターの記事「AT&T-DirecTV merger escapes heat as all eyes on Comcast」によると、連邦通信委員会(FCC)にせよ司法省反トラスト局にせよ、コムキャストの買収案件にはAT&Tのそれと比較にならないくらい神経を尖らせているが、それはアメリカ市民の関心の度合いがまるで異なるからである。実際、FCCへ届いた買収反対の嘆願書はAT&T案件が5であるのに対してコムキャスト案件は20、寄せられた意見はAT&T案件が14,000であるのに対してコムキャスト案件は88,000、そして買収賛成者と反対者を集めた開いたミーティングの数はAT&T案件の70回に対してコムキャスト案件は300回に及ぶ。コムキャストにせよAT&Tにせよ、買収が承認されれば有料テレビ市場を寡占するようになるわけだし、買収額もそれほど差はない。では、なぜコムキャストによるAT&T買収ばかりが問題視されるのだろうか。答えは有料テレビ市場ではなく、インターネット市場における支配力の差にある。
 TWCの契約者を加えると、コムキャストはインターネット契約3,200万世帯という巨大プロバイダーになり、ブロードバンド市場の4割を占めることになる。一方、AT&Tの現在のブロードバンド市場占有率は17%程度だが、衛星放送であるディレクTVはインターネットサービスを行っていないため、買収後も市場シェアが増えることはない。FCCも司法省も市民も、コムキャストのように1企業がインターネットを牛耳ること、そして結果として、コンテンツの流れに巨大な影響力を持つことを懸念しているのである。実際、コムキャストはNetflixに対して強い交渉力を持つ。ネット・トラッフィクの3分の1を占めるNetflixは安定した配信のため、コムキャスト(やAT&Tなどの大手プロバイダー)に対して専用回線使用料を払わざるを得ず、しかもコムキャストはNBCユニバーサルという映画およびテレビ番組コンテンツ製作の大手も傘下に持つため、Netflixはコンテンツ供給をNBCユニバーサルに依存している。Netflixの番組調達における高コスト体質はよく指摘される点だが、コムキャストが交渉力を行使すれば、Netflixのサービスに何らかの悪影響が出ても不思議ではない。
 アメリカの映像メディア界の再編に関してはもう1点、重要な動きが起きている。先月末、チャーターという、現状ではコムキャスト、TWCに次ぐケーブルテレビ3位の会社がブライトハウスという中規模のケーブルテレビ会社を100億ドルで買収すると発表した。3月31日のロイターの記事「Charter beefs up cable muscle with Bright House deal」は、チャーターがこれにとどまらず、5位のサドルリンク6位のメディアコム、7位のケーブルワンにも買収を仕掛け、コムキャスト+TWCに次ぐ巨大なケーブルテレビ会社を目指すだろうと伝えている。それどころか、もしもコムキャストのTWC買収が失敗に終わったら、チャーターがTWCに触手を伸ばす可能性まで示唆しているが、そうなると現コムキャストに肉薄するケーブル会社の誕生である。
 一時期、鳴りを潜めていた感があるアメリカ・メディア業界での統合・再編が再び激化しつつある。1990年代のそれは、例えば放送ネットワークと映画会社などの合併に見られたように、メディア企業内部の大型化・コングロメリット化への希求の中で起きたが、今回は動機が異なり、動画配信サービスという新たな動きに対する有料テレビの対抗策がその引き金になっている。果たして合従連衡は進むのだろうか。その場合、アメリカのメディア政策の中で重視されてきた競争促進や公共の利益とどのような論理で折り合いをつけるのか、興味は尽きない。
 
 
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11:20:41
 昨日、Netflixが今後2年で200か国に進出する目標を掲げた("Netflix accelerates global push as U.S. growth slows")。映画をはじめとする膨大なコンテンツをテレビ、PC、スマホ、タブレットなど様々なデバイスで、月9ドルほどで見放題で楽しめるアメリカの動画配信サービスNetflix。アメリカ国内だけで3,700万人(2014年9月)の契約者を抱えるNetflixのせいで、それまで長年かけて定着したテレビ視聴スタイルだったケーブルテレビ離れが進んだとか、ビデオレンタルというビジネスが壊滅したとか、あるいはNetflixはピーク時のインターネット・トラフィックの実に3分の1を占めるため、通信事業者に回線の優先利用料を払うことになったとか、何かと話題になることは多いが、アメリカ人のメディア利用に非常に大きな変革を起こして来たことは間違いない。日本でもコンテンツ配信といったテーマが議論される際、Netflixがしばしば事例として取り上げられている。実際、私も昨年春にアメリカから帰国して以来、Netflixの話を聞かれることが多い。
 Netflixの勢いを象徴的に語るのが、オリジナルコンテンツ製作である。2013年に配信された連続ドラマ『House of Cards』のシーズン1は昨年、アメリカ・テレビ界の最大の栄誉と言われるエミー賞に13部門でノミネートされた。この作品を見たいがためにNetflixに加入する人も多かったことは言うまでもない。それ以外にも、映画部門に進出し、今年公開予定の『Crouching Tiger, Hidden Dragon』(邦題・『グリーン・デスティニー』)続編の製作にも乗り出した。ここで議論を呼んだのは、Netflixが作品を劇場公開と同時に会員に無料配信することを打ち出した点である。今後は年間十数本の製作を予定している。こういった動きは、従来の映画コンテンツ展開、つまり劇場公開に始まり、時間差・価格差をコントロールしながらコンテンツをDVD・BDやテレビ放送など様々な媒体に展開していく、いわゆる「ウィンドウ戦略」のあり方を大きく変えることになる。もちろん、劇場興行主は反発していて、大手劇場チェーンが上映ボイコットを言い出したりもした("AMC Theaters Refuses to Show Netflix’s Crouching Tiger, Hidden Dragon Sequel")。ちなみに動画配信サービスでNetflixのライバルであるAmazonも映画製作に乗り出し、劇場公開の4〜8週間後にはプライムインスタント・ビデオで配信する予定である("Amazon to Produce and Acquire Movies for Theatrical, Online Release")。ケーブルテレビやレンタルビデオのみならず、映画興行にも影響を与えるとなると、NetflixやAmazonなどの動画配信サービスは最早全ての映像メディアを飲み込んで成長しているようにも見える。
 しかしNetflixに課題がないわけではない。2013年売り上げ(約44億ドル)のうち約30億ドルはコンテンツ調達費、つまり大手映画スタジオや番組制作会社への支払である。これに、上述の通信事業者への支払いが追い打ちをかける。こういったコスト高体質に加えて、アメリカでの成長はやや陰りが見える。2014年第4四半期は前年比で増収増益とはいえ、同年5月に実施した値上げの影響か、米国内の新規契約数は190万人で、前年の230万を下回ってしまった(もっともNetflixは価格変更後の新規加入者は主に所得の低い層であり、新価格設定と新規加入者の相関性は低いとしている)。
 そんな中、活路を見出そうとしているのが海外市場である。2010年から海外展開を行ってきたNetflixは現在アメリカ以外の約50か国にも2,000万人ほどの契約者を抱えるが、冒頭に記したように、今後2年で200か国に進出する目標を掲げた。そして、いよいよ今年は日本上陸という話も喧しい。私は放送業界にいる知人数名から、某企業が名乗りを上げたなどという話を聞いたが、微妙に内容が食い違っている。情報や噂が錯綜しているのかもしれないし、本当のところはわからない。ただ、冒頭の記事には具体的な国名として中国は記されているが、日本進出に関しては言及されていない。200か国にも進出するのであれば、日本は含まれていても当然と思えるが、果たして現在の日本市場はNetflixにとってどれほど魅力的な市場なのだろうか。1人当たりの可処分所得が高いことや、長年にわたってアメリカ映画の重要な市場であったこと、さらにはネット環境が整っていることや各種デバイスの普及が高いことなどは、進出の判断材料としては当然プラスに働くと考えられる。
 一方、不安材料と思われるのはどのような点だろうか。よく指摘されるのは、先日デロイトトーマツが発表したリポート「デジタルメディア利用実態グローバル調査2014」にもあるように、日本では(例えばアメリカの視聴者と比べて)、有料でコンテンツを消費するサービス自体に対して興味が低いという点である。実際、有料の動画配信サービスでこれまでのところ成功モデルはあまり見当たらない。一時期アメリカでNetflixと人気を二分していたHuluは2011年に日本進出し、昨年は日本テレビに買収された。契約者数や損益が明らかにされていないので経営状況は不明だが、実際の契約者に聞くとサービス自体の評判は悪くないものの、一般に浸透しているとは言いがたい。Netflixも少なくとも現段階で関心を持つのは業界関係者やITイノベーションの早期採用者が中心で、重要顧客になりそうなテレビ視聴者でいうところのF1/M1層でNetflixが日本へ来ることに期待するような人はかなり限られるのではないだろうか。そのようにあまり関心が高くない市場で月額1,000円程度の無名サービスを立ち上げ、会員を増やしていくのは非常に大変であると予想される。
 さらに日本独自の点を挙げると、いまだにレンタルビデオにニーズがある点も見逃せない。借りるのも返すのもわざわざ店舗に出向かなければならず、在庫に限りがあるため特に最新作などは貸し出し中で見られない可能性が高く、しかも延滞料金まで発生しうるサービスがアメリカで急速に衰退したのは、まさに動画配信サービスの発展と期を同じくしているわけだが、日本はレンタルビデオサービスにある程度満足している人は多いのではないだろうか。普段大学生と接していると、レンタルビデオ利用者は多いと感じる。
 恐らく世界市場での成功の試金石としてNetflixがHulu以上に注視しているのはHBOである。HBOとはアメリカの有名なプレミアムチャンネルで、サービス自体は日本のWOWOWのようなものだが、ケーブルテレビなど有料放送に加入しないと視聴できないため、これまでHBO視聴に対するニーズが有料放送加入の大きな要因になってきた経緯がある(もっとも近年のNetflixの急成長に慌てたHBOは今年から有料放送契約者以外に向けた動画配信も行うと発表した)。HBOは日本ではあまり馴染みがないと思われるが、他の多くの国ではNetflixよりはるかに知られている。実は2013年、Netflixがアメリカ国内の総契約者数でHBOを抜いたと大きなニュースになった経緯があるのだが、その時にHBOが強調したのは、世界規模で見た場合、HBOの方がはるかに多くの契約者数を持つという点だった("Netflix Surpasses HBO in U.S. Subscribers")。実際にその時点でのアメリカ以外での契約者はHBOの8,600万に対して、Netflixは710万に過ぎず、それ以降、Netflixは急速に海外展開に傾斜した。そのHBOはアジアでも積極的に展開しているものの、なぜか明白な理由はわからないが、日本には来ていない。HBOの親会社であるタイムワーナーはCNNやカートゥーンネットワークなど、その他のケーブルチャンネルの日本進出には熱心だったにもかかわらずである。
 海外のメディアが日本に進出する際、かねてから「日本は豊かで魅力的な市場だが、独特な嗜好や習慣があり難しい市場でもある」と言われることが多かった。長年にわたって日本の視聴者を涵養し、独特な市場を育ててきたのは地上波放送の力が大きいと思われるが、果たしてNetflixは重い扉を開けて入ってくるのだろうか。そして、アメリカでそうだったように日本のメディア消費に一石を投じることはできるのだろうか。

13:01:05
 3月2日のアカデミー賞授賞式の中継で、司会進行を務めたエレン・デジェネレスは度々小道具としてスマホを持ち出した。極めつけは会場にいるスターたちと撮ったセルフィー(selfie、自分撮り)で、わずか1時間の間に100万リツイート、5日までに320万リツイートを記録した。リツイート数の世界記録だそうで、日本でも随分と話題になった。本当に楽しそうでいい写真だ。

Ellen-Selfie.png

 エレン・デジェネレスはアメリカではトークショーの司会者としてかなり有名で、タレントいじりと悪ふざけ芸に定評がある。そんな彼女だから、アカデミー賞でのセルフィーも非常に自然で、自分が普段愛用しているスマホを取り出して、スターたちをいじりながら、「ツイッターをクラッシュさせよう」という悪ふざけに興じているように見えた。中継ではその時の様子が一部始終放送され、エレンの白いスマホも、ずっと画面に映し出されていた。

smartphone.png

 ところが、そのスマホは実はエレンの私物ではなく、番組スポンサーであるサムソンから提供されたものだった。番組内での商品露出を狙ってのことである。このことから、日本では「これってステマ?」といった疑念もあるようだが(「アカデミー賞の授賞式はサムスンのステマだったのか?!」)、なんてことはない、ウォールストリート・ジャーナルの記事「サムスンの広告戦略、想定以上の大成功 アカデミー賞授賞式で」にあるように、「プロダクト・プレイスメント」というブランド・プロモーションの一種である。
 プロダクト・プレイスメント(あるいはブランド・プレイスメント)とは、映画、テレビ番組、ビデオゲームなどコンテンツ内で実在のブランド製品を露出させることである。製品自体を映し出すこともあれば、ロゴだけを強調することもある。また、セリフでブランド名に言及することもある。テレビCMのように作品中に広告を挿入できない映画で伝統的に使われてきた手法だが、プロダクト・プレイスメントが飛躍的に注目を浴びるようになったのは1980年代である。大ヒット映画『E.T.』に登場したReese’s Piecesというチョコレートの認知度が映画での露出を契機に高まったこと、そして、プロダクト・プレイスメントを専門的に扱う代理店(そんなのまであるのかって感じだが…)が次々と誕生したことと関連づけられる。
 ハリウッド映画を見ていると、ジャンルによっては本当によく目につく。2012年のアメリカでの興行収入1位34作品の中には、397のブランド製品が登場したり、言及されたりしている(1作品あたり11.7ブランド)。ちなみに、その34作品の中に最も多く登場したブランドはメルセデス・ベンツで、10作品に登場している。作品ごとに見ると、近年の有名作品でプロダクトプレイスが多かったのは『セックス・アンド・ザ・シティ』(2008年)で、実に94ブランドが登場している。『セックス・アンド・ザ・シティ』もそうだが、作品によっては、ブランドが物語上、非常に重要な役割を果たしたり、登場人物のキャラクターを印象づける上で不可欠だったりすることもある。今回のアカデミー賞におけるサムソンのスマホも、エレンの悪ふざけ劇の中で重要な役割を果たしているという意味では、それに近いような印象を受ける。
 近年では、映画以上にテレビ番組におけるプロダクト・プレイスメントが盛んなのだが、そのことは従来のテレビCMがスキップされるなどして、効きにくくなっていることとも関係があるのかもしれない。とにかくプロダクト・プレイスメントはアメリカではかなりの大きなビジネスになっていて、PQメディアによれば、2012年の市場規模(自社ブランド露出のために払った額)は47億5000万ドルだったが、実際にはその数字だけでは、プロダクト・プレイスメントの全体像を掴むことは難しい。企業側の支出を伴わないプレイスメントも多いからである。有名なのはアップルで、2012年興行収入1位作品ではメルセデス・ベンツに続く9作品での露出だが、スタジオ側は無償でアップル製品を登場させている。アップル製品が物語上あるいは登場人物描写上で不可欠であるためだろうが、アップルにとっては、小道具などの供与はあるにせよ、無料でプロモーションをしてもらっているようなものじゃないだろうか。
 一方、コンテンツ会社側にしてもメリットは大きい。先述の通り、小道具などの供与を受けることで制作費節約につながるうえに、場合によってはカネも払われる(アカデミー賞のサムソンの場合、プロダクト・プレイスメント費用は広告契約1800万ドルに含まれたようだ)。しかもブランドのCMなどでビデオクリップが使われれば、コンテンツのプロモーションにもなる。面白いのは、アメリカでも特に若者にはプロダクト・プレイスメントに抵抗がない人が多く、架空のブランドが登場するよりもむしろリアリティが増すと評価する声も聞かれる。ただ、もちろんこれは程度の問題で、プロダクト・プレイスメントは「観客に注目されるように目立たなければならないが、観客を不快にさせるほど目立ってはいけない」と言われる。
 最近ではアメリカ以外の国でもプロダクト・プレイスメントが活発になっていて、世界的に見るとブラジル、メキシコがそれぞれ8億6000万ドル、6億7000万ドルで2位、3位につけている。中国市場も成長著しく、2012年は前年比27.2%増の約1億ドルである。2011年の『トランスフォーマー3』にはいくつかの中国ブランドが登場して話題になったし、逆に中国映画には、中国市場を重視するグローバルブランドが次々と登場し始めている。新興国には、アメリカ同様、プロダクト・プレイスメントを専門的に扱う代理店も誕生しているようだ。
 翻って日本に状況はどうだろう。世界的に見れば6位(1億ドル以上)ではあるが、経済規模、広告規模、メディア規模などの割には、あまりプロダクト・プレイスメントが盛んに行われている印象はない。ドラマなどでは昔から提供スポンサーの製品が登場したりしていたが、恐らく多くの場合、他社製品と代替可能であり、特定ブランドでなければいけないような役割を与えられているわけでも、物語における重要な要素となっているわけでもないことが多いように思う。プレイスメント専門の代理店があるかは不明である。
 プロダクト・プレイスメントにはいくつかの欠点がある。ブランドはコンテンツの中にはめ込まれてしまうので、キャンペーンが終わったから新製品と替えるというわけにはいかない(デジタル技術で可能という話もあるが)。実際、昔の映画を見ていると、今はもう存在しないブランドが登場したりする。また、実際にどういった効果があるのか測定しづらい点もブランド企業側には不評なのかもしれない。これまでの研究では、ブランド認知・想起を高めたり、好意的なブランドイメージを形成したり、口コミの広がりを発生させたり(アカデミー賞のサムソンの場合、一時ソーシャルメディア上で1分間に約900回も言及されていた)、あるいは新製品投入を後押しするのに有効とされているが、それにしても、どういったコンテンツにどういうふうに露出させるか次第というようにも考えられる。他のプロモーション活動とのマッチングもあるだろう。いずれにせよ、ただブランドを登場させるだけでは、あまり効果は期待できず、かなり入念に戦略を策定しなければならないと考えられる。 

14:50:18
 放送・通信業界の動向に関心がある人は既にご存知だろうが、今月12日、アメリカの最大手ケーブル会社のコムキャストが第2位のタイムワーナーケーブル(TWC)の買収を発表した。株式交換による買収額は452億ドルで、昨年話題になったソフトバンクによるスプリント(アメリカ第3位の携帯電話会社)買収が216億ドルだったことからも、規模の大きさがわかる。買収が承認されれば、アメリカのケーブルテレビ市場の3割近いシェアを占めるだけでなく、ケーブルテレビに電話と高速インターネットを併せた、いわゆる「トリプルプレー」の約5割を扱う、巨大なブロードバンドインターネット・プロバイダーが誕生することになる。一方で、買収が独占禁止法に抵触すると判断される可能性もあり、買収そのものを懸念する声も聞こえ始めている。メディア企業の買収・合併に対してこのような否定的な声が起きることは珍しくなく、1990年代以降に加速した業界再編の中で何度も聞いてきたのだが、特に今回は日常生活に深く関わるテレビとインターネットにおけるキープレイヤー同士であり、消費者にとっての影響も大きいと考えられる。
 買収発表の翌日にThe New Yorkerに掲載された記事“We need real competition, not a cable-internet monopoly”によると、現在アメリカのブロードバンドインターネット環境は他の先進諸国に比べて著しく劣っていて、例えば、フランスでは「トリプルプレー」をアメリカの4分の1程度の料金で契約することができる上に、回線はダウンロードで10倍、アップロードで20倍の速さであるという。他にも韓国やスイスでは15~30ドルからトリプルプレー契約ができたり、イギリスでは多チャンネルサービスが無料だったりといった例が紹介され、アメリカでは他国に比べて大して質の高くないサービスに高いカネを払わされると述べている(ちなみに、我が家もアメリカでトリプルプレー契約をしているが、毎月126ドルも払っている)。そして、その理由として、アメリカのケーブルおよび通信産業での参入障害の高さと競争の少なさを挙げている。
 ケーブル会社は元々がCATV(コミュニティ・アンテナTV)という成り立ち上、それぞれの地域の事業者が運営していたのだが、90年代に入るとそれらを統合して運営する「MSO(Multiple Systems Operator)」と呼ばれる事業者が急増した。MSOはそれまで零細事業者が乱立していたケーブルテレビ業界を一変させ、規模の経済を活かした効率運営というビジネスモデルを確立した。このMSOの典型が今回の買収の主役であるコムキャストでありTWCである(ちなみに日本のケーブル最大手であるJ-COMもMSO)。いくつかのMSOを中心に90年代以降、ケーブル業界の統合・再編が進んだわけだが、問題はそれらMSOが各サービス提供地域で独占的に事業展開をしていて、他社との競争がほとんどないという点にある(消費者からすればケーブル会社選択の余地がない)。伝統的にケーブル会社は地方政府にフランチャイズを認められ、地域独占を享受してきたわけだが、結果として、不完全競争市場で競合に晒されることもなく、思いのままに料金をコントロールできる立場にあった。
 特にコムキャストはケーブル業界が統合・再編する中で資本を蓄えてきた会社という印象があり、株価は2009年からの5年間で実に5倍になっている。今回の買収が認められれば、全米の上位20市場のうち19市場をサービス対象地域として手中に収めることになる(各市場内で他者と営業区域を分け合っているケースがほとんどではあるが)。また一方で、コムキャストは昨年、巨大メディア複合企業であるNBCユニバーサル(全国放送ネットワークのNBCやユニバーサル映画を傘下に持つ)も完全子会社化している。現在行われているソチ五輪のアメリカでの独占放映権もNBCが取得しているので、実質的にはコムキャストのものであり、コムキャスト契約者はPCやタブレットなどでネット配信も楽しむことができる。今回のTWC買収により、コンテンツとアウトレットの垂直統合がさらに推し進められることになるだろう。
 今回の買収の大義としてコムキャスト側は、顧客に高度なサービスを提供するためにはインフラストラクチャーやコンテンツに積極的に投資できる資本力が必要であり、結局は公共の利益に適うだろうし、質の高いサービスのために料金の値上げはやむを得ないという。これらはメディア買収に際していつも聞かれる企業側の論理であるが、コンテンツに関してはそう言わざるを得ないと思い当たる点も確かにある。NBCユニバーサルという強力な番組供給事業者を傘下に収めていると言っても、コムキャストにすれば(無論、他のケーブル会社にとっても)同系列の企業が所有するコンテンツばかりを流すわけにはいかない。一方、番組供給事業者、例えば、他の大手メディア企業が所有するネットワークは当然、高い送信料を要求してくる。近年では、地上波放送再送信にかかる費用も急上昇しており、放送局とケーブル局で揉めるケースも発生している(詳しくは過去のエントリー「アメリカ・地上波放送ブラックアウトの結末」「ローカル局の弱みと有料テレビとの争い」をご覧下さい)。かつてのような「ケーブルテレビ=家庭に映像を届けるボトルネック」といった絶対的優位性が失われつつある中で、今回の買収はコンテンツホルダーとの交渉力につながると予想される。
 また、一部のMSOが巨大化することで競争が阻害されるという主張に対しても、当のケーブル関係者は自分たちが常に競争に晒されてきたと反論する。1992年のケーブルテレビ消費者保護・競争法では先述の市場上限規制がかけられ(これに猛反対したのもコムキャストで訴訟まで起こしている)、それ以降は常に衛星放送や通信会社、映像配信サービスとの競争を余儀なくされているというのである。今回の買収の背景に、若者ユーザーを中心としたケーブル離れ(詳しくは昨年のエントリー「アメリカのテレビ環境:ノーモア・ケーブルテレビ?」をご覧下さい)に対する焦りがあることは想像に難くない。巨大なインターネット・プロバイダーとして、ケーブル衰退の主要因とも言われるNetflixやAmazonの映像配信サービスをどのように扱うのかは気になる所だ。
 このような状況において、果たしてコムキャストのTWC買収が承認されるかどうかに注目が集まっている。司法省の反トラスト局は昨年、世界最大の航空会社誕生となったアメリカン航空とUSエアウェイズの合併を承認していることから、先のThe New Yorkerの記事では、大型買収に甘くなっているのではないかと疑義を呈している。一方、FCCは現在のトム・ウィーラー委員長がそもそも通信業界やケーブル業界のロビイストだった人物である。彼は最近のスピーチでも競争促進を政策の中心に置くことを明言している。競争促進は、公共の利益や多様性の確保と並び、アメリカにおけるメディア政策の基本理念の1つである。競争を重視する姿勢が今回のコムキャストによるTWC買収承認・不承認にどのように反映されるのか、注視したい。

14:19:05
 北は北海道から南は九州・沖縄まで同じ時間に流れる番組を「全国ネットの番組」と呼ぶ。圧倒的多くの場合、全国ネットの番組は東京のテレビ局(キー局)が製作したもので、それを全国各地の系列局が放送する。例えば、日本テレビが作った番組を北海道は札幌テレビ、青森は青森放送、…鹿児島は鹿児島讀賣テレビが放送するといった具合である。キー局といえども放送電波が届くのは関東一円だけなので、このように各地のローカル局を介して初めて日本全国の家庭に1つの番組を届けることができる。
 さて、このように全国ネットの番組の多くは東京のキー局から全国のローカル局に供給されるわけだが、この時、「カネの流れ」はどのようになっているだろうか。通常の取引の感覚だと、番組の対価としてローカル局がキー局に払うと考えられそうだが、実際はその逆である。つまり、ローカル局はキー局から番組だけでなく、カネも与えられているのである。
 このカネは業界では「ネットワーク費」とか「電波料」などと呼ばれるが、なぜこのような一見不可思議なカネの流れが発生するのだろうか。簡単にいうと、全国ネットの番組は全国に向けて自社製品を宣伝したい企業のCMも含んだ形でキー局からローカル局に渡されることが多い。このような状態をローカル局側から見ると、本来ならば自分たちが独自にスポンサーを見つけて販売できるはずのCM枠が既に埋まってしまっていることになる。そのような機会損失をキー局が補填するためにカネが払われているわけで、従って、キー局はカネを払って各ローカル局に当該地域で番組とCMを流してもらっていると言った方が適切かもしれない。かつてテレビ局に勤務していた時、このような構造を知って非常に驚いた記憶がある。CMスポンサー、キー局、ローカル局、これら3者が皆得する仕組みがうまくできてるなあ、と感心したわけである。
 一方で「番組が与えられる上にカネまで貰えるんじゃ、ますますローカル局は自分たちで番組を作るなどの自助努力をしなくなる」、「キー局支配下のピラミッド構造の下ではローカル色が薄れる一方だ」という批判が聞かれることがあるのは、上記のような構造が番組流通の根幹にあるためだろう。ローカル局が努力しているか否かは何とも言えないが、その生殺与奪をキー局が握っていることは間違いなさそうだ。ただ、キー局もかつてのように全国CMスポンサーが殺到する状況ならともかく、今日ではネットワーク費を各系列局に配分することはそれなりの負担になっているはずである。
 さて、長々とキー局・ローカル局間の全国ネット番組供給にかかるカネの流れを説いた。実はアメリカにも、日本同様に「ネットワーク費」のようなものが存在したが、現在は実質的に廃止の方向へ向かっている(アメリカにはキー局が存在しないため、全国ネット番組はネットワークと各ローカル局間の取引になる)。メディア調査会社のSNL Saganによると、1996年に合計で6億700万ドルだったネットワーク費は2012年には2,510万ドルにまで急減している。しかも、ローカル局にネットワーク費が払われないようになっただけでなく、逆にローカル局がネットワークに番組対価を支払うようになってきているのである。かといって系列局が自由に販売できるCM枠が増えているわけでもなく、相変わらず番組とネットCMは一体で渡される。日本のローカル局に勤務する友人によると、このような状況に追い込まれれば、日本の多くのローカル局は経営が立ちいかなくなると話していたが、ではなぜアメリカのローカル局(系列局)はネットワーク費廃止でも存続可能なのか。それはアメリカのローカル局の場合、ケーブルテレビや衛星放送など、地上波放送を再送信している有料放送プラットフォームから払われるカネ(再送信料)が広告と並ぶ大きな収入源になっているからである。前出のSNL Saganによると2010年に合計で約11億ドルだった再送信料は17年には約36億ドルまで上昇すると予想されている。
 このような状況の下、ネットワークはローカル局に対して「君たちはケーブルテレビから再送信料をもらっているが、それは私たちの人気番組を流しているからだ。再送信料の何%かをネットワークに収めなさい」と主張し始めた。簡単に言えば、「分け前をよこせ」という話である。
 日本の場合、ネットワーク費はローカル局の収入の30%ほどを占める場合があると聞いた記憶があるが、アメリカだと、特に規模の大きいローカル局ほど、ネットワークへの依存は収入面というよりもコンテンツ供給面において顕著で、コンテンツを卸してくれるネットワークには頭が上がらない(以前は力関係が逆だったが、今やネットワークが番組を視聴者に届けるにあたって必ずしもローカル局に頼らなくても良くなってきた)。一方、収入面では、ローカル局はケーブルテレビなどのプラットフォームからの再送信料収入を増やすことに執心している。
 そんな中、ローカル局とケーブルテレビに間では、再送信契約を巡って揉めるケースが発生している。今夏、アメリカのメディア界で大きな話題となったのは、タイムワーナー・ケーブル(TWC)によるCBSブラックアウトだった(詳しくは過去のエントリー「地上波放送ブラックアウトから2週間」「アメリカ・地上波放送ブラックアウトの結末」をご参照下さい)。CBS系列局がTWCに対して、1世帯当たり56セント(1か月あたり)の再送信料を一気に2ドルにまで引き上げることを要求し、それを当初拒否したTWCがニューヨークなどでCBSの再送信を停止したのだが、視聴者の反発は大きく、結局再送信料値上げに応じた。これだけで、TWCから件のCBS数局への収入はそれまの一月約179万ドルから約640万ドルへ、実に250%も増加した。
 この件では、アメリカの視聴者はケーブル側に批判的な声が多かったようだが、それは単に「好きなCBSの番組が見られない」という理由によるものだった。ただその一方で、ローカル局へ支払う再送信料上昇がケーブル契約料金に反映されることは明らかである。こうなってくると、ますます「地上波放送は無料で見られる」って感覚が希薄になっていく。そして、ケーブル料金の高騰がケーブルテレビ離れを加速させていく。アメリカで起きているケーブルテレビ離れは、以前「アメリカのテレビ環境:ノーモア・ケーブルテレビ」という記事に書いたように、NetflixやHuluといったストリーミング動画配信サービスが原因として語られることが多いが、実はそういった「ケーブルテレビ対動画サービス」というテレビ業界を超えた対立軸だけでなくて、「ローカル局対ケーブルテレビ」という、テレビ業界内の対立軸も見る必要があるようだ。  

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大場吾郎

Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
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