地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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21:57:23
 明日2012年10月1日をもって、僕がかつて勤務していたテレビ局がなくなる。厳密には消滅するわけではなく、名前が変わり、「日本テレビ放送網株式会社」は「日本テレビホールディングス株式会社(日テレHD)」という、いわゆる「持株会社」の子会社となる(http://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/docs/688.pdf)。この場合の「持株会社」とは、株式を相互に持ち合う会社という意味ではなく、グループ全体の中核となる純粋持株会社という意味だ。日テレHDの傘下には日本テレビ放送網だけでなく、BS日本やシーエス日本、バップや日本テレビ音楽なども収まる。ちなみにそれらの企業はこれまで関連企業同士ではあったが、別会社だった。持株会社である日テレHDの主業務はあくまで子会社管理であり、自ら番組を作ったり放送したりすることはなく、各子会社からの配当が収入になる。
 実は日テレ以前にも、民放キー局の中ではフジテレビ、TBS、テレビ東京がそれぞれフジ・メディア・ホールディングス(2008年)、東京放送ホールディングス(2009年)、テレビ東京ホールディングス(2010年)という放送持株会社への移行に既に踏み切っている。なぜここ数年でこういった動きが起きているのだろうか。
 制度的には、2007年に成立し、翌年施行された改正放送法によって、認定放送持株会社の設立が認められたことが引き金になっている。これによって、同一企業が複数の放送局を保有することを容易にした認定放送持株会社が認められるようになった。逆に考えれば、ほんの5年ほど前までは、ある企業が2つ以上の放送局を所有・経営することは認められていなかったのである。2000年のBS参入を前にして各キー局が別会社を作らなければならなかったのはこのためである。
 ではなぜ同一企業が複数の放送局を保有することが禁じられていたのか。放送法の規定で「マスメディア集中排除原則」が定められているからである。これは、放送できる機会をできるだけ多くの者に対し確保することで、放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有され、放送における表現の多様性を確保するようにすることを目的としている。この規定は現在でも存在するが、特例として、認定放送持株会社の子会社化を認めたのである。
 これによって複数のテレビ局を傘下に置いたグループ一体経営が可能になったわけだが、実はこのような規制緩和が言われた当初、僕はテレビ局の再編成は現在とは違った形で進行すると思っていた。放送持株会社の認定は、表面的には、効率的な企業経営を可能にして、各放送局の競争力向上を目標とするものである。しかし実際は、地上デジタル放送移行にかかる巨額の投資負担や経営難に直面する地方局救済のための措置と感じられたのである。結果として、首都圏・関西圏・中京圏を除いて、全国で概ね各県ごとに数局ずつある地方局を統合・整理する動きが加速すると思っていたし、実際、放送局勤務の友人らからもそういった話を聞いていた。
 実は、放送持株会社といっても無数の放送局を子会社化できるわけではなく、過度な集約を防ぐため、子会社数に一定の制限が設けられている。具体的には最大12局とし、在京キー局は7局、関西の準キー局は6局、中京の局は3局分として数える。従って、キー局を含める場合は同時に傘下に入れる地方局は最大でも5局となり、関西の準キー局は所有できない。このような規定を踏まえ、各地域ブロックに放送持株会社が誕生するだろうと考えられたのである。まるで道州制のような話だけど。
 例えば現在、東北地方に日本テレビの系列局は6つ(青森放送、テレビ岩手、宮城テレビ、秋田放送、山形放送、福島中央テレビ)ある。仮称だが「東北日本テレビホールディングス」といったような放送持株会社を作り、そこに上述の6局が子会社として入る。そうすれば東北全体(1千万人弱?)の市場でビジネスをできるわけであり、規模の経済を達成できる。もちろんローカルニュース枠などは各放送局に割り当てる。
 ところが首都圏の各キー局が持株会社移行の先に描いたビジネスプランは、地方局統合ではなく、地上波・BS・CSの統合だった。実際、日本テレビの大久保社長は会見で、地方の系列局を傘下に収めることは検討課題になっていないと明言したらしい(日本経済新聞、2012年3月30日)。推測だが、キー局主導の動きに対して、地方局の抵抗というか拒否反応は意外と根強いようだ。経営難に苦しむ地方局にとっては財政基盤が強化されることは願ってもない話だが、その一方で、持株会社に入ることで経営支配されることに根強い抵抗があるのではないか。また、地方局の場合、その成り立ちから言っても各地方の有力企業や団体、新聞社との結びつきが強く、それらの意向を尊重しなければならないという事情もあるだろう。地方局は、各地域の顔みたいなものであり、局間の調整は一筋縄ではいかないことも多い。経済的なメリットだけでは話が進まないことも多そうだ。
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20:56:19
 日本のバラエティ番組の海外展開の方法として、話題になることも多いフォーマット販売だが、国が支援に乗り出すようだ(http://eiga.com/news/20120911/14/)。ところで、そもそも番組フォーマット販売とは何か。ちなみに僕は著書『韓国で日本のテレビ番組はどう見られているのか』の第6章「バラエティ番組:パクリとフォーマット販売」で、相当ページを割いてフォーマット販売を説明しているので、関心ある方はそちらもご覧頂きたい。多分、日本の図書文献の中でフォーマット販売をここまで細かく説明しているものはないと自負している。話を戻すが、テレビ番組のフォーマット販売とは、ある番組のコンセプトや構成、演出方法などをパッケージ化し、1つの権利(フォーマット権)として海外市場の番組制作者に販売することである。
 世界的に有名な番組フォーマット販売の代表作としては、イギリスの番組プロダクションが開発した『Who Wants to Be a Millionaire?』が挙げられる。これは、世界の約70カ国へフォーマット販売され、各国版が制作された。面白いのは、国ごとに多少の違いは見られるものの、番組の進行やスタジオセット、音楽、照明、コンピューターシステムに至るまで、概ね世界的に統一されている点だ。日本ではフジテレビがフォーマットを購入し、日本版である『クイズ$ミリオネア』が制作・放送されたことを覚えている人も多いだろう。僕は日本版、アメリカ版、あと映画『スラムドッグ・ミリオネア』でインド版を見たが、確かに出演者や言語以外は統一されている印象を受けた。
 一方、日本の番組のフォーマットが海外に売られることもある。この分野はTBSが一生懸命やっていて、『風雲!たけし城』や『SASUKE』は100か国以上に番組フォーマットが販売されている。あと、フジテレビの『料理の鉄人』は当初、アメリカで日本版が放送されていたが、反響が大きかったためアメリカ現地版を作り始めた。こちらもアメリカに暮らしていた時に見たが、廉価版コピーみたいなイマイチな出来で、全体的にそれほどオリジナルに忠実な感じでもなかったと記憶している。
 さて、番組フォーマット販売の長所とは何だろうか。まず、既に完成した番組を海外へ輸出販売するのと違って、権利処理が楽な点が挙げられる。かつての記事(「海外に売れない日本の番組」)でも書いたように、日本の番組は海外販売に際して、とにかく権利処理上の制約が多い。中でも権利処理の煩雑さと費用は頭が痛いところだが、フォーマット販売はコンセプトや企画を売るものなので、そういった部分に悩まずに済む。そしてもう1つ、言語や出演者、番組のディテールをそれぞれの国・市場に合わせて変更できる点も大きい。みのもんたさんが日本語でMCをやり、顔なじみのタレントらが出演する『クイズ・ミリオネア』だから日本の視聴者は見るのであって、それがイギリスのオリジナル版だったら、日本の視聴者への魅力はかなり割引されてしまう。また、売る側にしてみれば、一度フォーマットを売れば、買った側が番組を放送し続ける限り、定期的に収入が入ってくる点も大きい。
 では逆に、番組フォーマット販売の短所は何だろうか。まずは、フォーマット販売という形式自体に対する理解がまだまだ世界的に共有されていると言えない点が挙げられる。「フォーマット権」といっても、それは著作権のように法的に保護されるものではなく、フォーマット販売は、いわば売る側と買う側の間の契約に基づいた商取引である。ここで販売される番組の企画やコンセプトはそもそも著作権で守られるものではないため、これまでテレビ番組に関する剽窃や盗作、パクリの類の話は、噂レベルのものも含めて、本当に多かった。このようにパクれば無料で済むものに対して、きちんと契約をして、カネを払うのがフォーマット販売なのだが、パクリに慣れてしまっている制作者に受け入れられるだろうか。ただしこの点は、長年にわたって日本の番組のパクリが横行していた韓国でも最近はフォーマット契約を遵守するようになってきているというから、時間とともに慣習化するのかもしれない…と書いていたそばから、また韓国のパクリが発覚した(http://news.livedoor.com/article/detail/6936567/)。
 また、フォーマット販売の場合、買った側が自国市場に合わせて細部をローカライズするわけで、それが利点だと先に記したが、このことは、原産国のイメージが綺麗さっぱり消され、あたかも購入国のオリジナル制作番組のように見えることを意味する。このようなフォーマット販売の性質ゆえに、テレビ番組の国際流通を文化交流の一環として捉えようとした場合、そこにフォーマット販売された番組が寄与できる部分は実は少ない。例えば外国人が日本のドラマ視聴を通じて、日本文化や日本人的なものに触れることは可能だろうが、自国用に作り替えられたバラエティ番組を見て、そのようなものを感じることは難しい。
 あと、日本でいうところのバラエティ番組は多種多様で、「これがバラエティ番組だ」という定型を持たないが、フォーマット販売する場合には、実は企画によって売りやすい・売りにくいがあるように思える。例えば、『ミリオネア』の例からわかるように、クイズ番組はやりやすそうである。また、体を使ったチャレンジ系もフォーマット販売しやすそうだ。先の例でいうと、『風雲!たけし城』や『SASUKE』がこれに該当する。一方、今日主流となっている、スタジオに雛壇があって、芸人やタレントがトークを展開するバラエティ番組は難しいかもしれない。まず、一部の東アジア諸国を除いて、あのような番組スタイルはおそらく存在しないため、たとえ自国の芸能人を使ったとしても、出演者・視聴者ともに番組スタイルそのものに馴染めない。トークにおける笑いのツボが異文化環境では随分違う点も、負に働きそうだ。結局、番組の企画やコンセプトを売るとなった時に、やはり万国共通のわかりやすさ、特に見た目のわかりやすさは重要だと思われる。その意味でも、トーク中心の番組はやはりつらい。

プロフィール

大場吾郎

Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
Twitter:@obagoro

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