地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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20:32:34
 先週、総務省でコンテンツ振興関連のヒアリングを行ってきた。今年3月に発足したコンテンツ海外展開協議会が8月に報告書を出したばかりなので、現状を体系的に理解するには良い機会だった。
 既存のテレビ番組の海外販売が相変わらずパッとしない点は今更ここで強調する必要はないだろう。原因が何かという点もハッキリしている。ご存じでなければ、弊ブログの過去のエントリーをご覧頂ければ幸いである(「海外に売れない日本のテレビ番組①~儲けにならない海外市場」以下4篇)。ただ問題は、権利処理の問題であれ、違法動画の流通であれ、不振の原因が2000年代初頭から指摘されているのに、それらを改善できない点にある。関係省庁は施策を案じてはいるし、実際に対策に乗り出している部分もあるが、これだけ時間をかけても効果がはっきりと出てないところを目の当たりにすると、それらの問題点が構造的に根深いものであると同時に、テレビ番組の海外展開は大きな方向転換も必要なのではないかという気になる。つまりドラマであれ、バラエティ番組であれ、日本で放送したものを海外市場に売るという、従来の番組販売方法、大した成功につながらないビジネスモデルの見直しである。
 新たな取り組みの1つは、これも以前のエントリーで書いたが、番組フォーマットの販売である(「日本のバラエティ企画、海を超える!?」)。フォーマット販売に関しては、企画力があり、マス向けコンテンツを制作するノウハウを持つキー局が主に考えていかねばならない部分だろう。ただし、あくまで民間ベースの事業であり、官が入り込む余地は少ない。
 もう1つは、ローカル局や制作会社が海外向けの番組(地域コンテンツ)を作り、海外市場で展開していくというものである。番組内容は地域の活性化を目指すものであり、観光をアピールするものが中心になる。一番有名なのは(といっても日本国内ではほとんど目にする機会がないので、日本人視聴者には馴染みないものだが)、北海道テレビが制作している『北海道アワー』という東アジアを中心に放送されている番組で、実に15年の歴史を持つ。実際に放送を続ける中で、台湾からの観光客が増えたそうだ。その番組を1つのモデルとして、全国各地の他のローカル局も「自分たちも何かできないか」と考え始めているという。
 このような地域コンテンツのメリットはいくつか考えられる。まずは、ローカル局にとって番組・カネ両方におけるキー局への依存が高まる中、このような独自のビジネスを展開することが評価に値する。次に、観光客を呼びこむ、いわゆるインバウンド効果が期待できる。名産品や食などとの連携も可能だろう。また、比較的廉価でコンテンツを制作・運用できる点も重要だ。地場産業の協力があれば、コストダウンにつながる部分もあるだろうし、あくまで海外市場向けに作っているのだから、従来の海外番組販売に比べて権利処理の煩雑さも回避できそうだ。
 ただし、現時点では課題も多い。まずは、地域コンテンツのコンテンツとして特性が挙げられる。「コンテンツを利用した観光促進」として思い浮かぶのは映画やドラマ、アニメなどのロケ現場である。それらのコンテンツではストーリーが展開する中で、その舞台となる街が魅力的に描かれているから、人々はロケ地巡りやアニメにおける聖地巡礼に憧れるのである。そういったコンテクストが存在しない観光紹介番組で、ロケーションはどれだけ人々に訴える力を持つのだろうか。例えは悪くなるかもしれないが、人気のある俳優が映画やドラマの魅力的なコンテクストの中で使うグッズだから、観客や視聴者の中にはそれを買いたいと思う人がいるわけであって、同じグッズでもそれを売るための通信販売番組で紹介されれば訴求力はぐっと落ちるのではないかと思うのである。
 あと地域コンテンツを制作するといっても、ローカル局によって(厳密には、その局の後背地域によって)観光資源には差がある。北海道や関西のテレビ局であれば名所史跡・文化・自然なども豊富だろうが、もっと小規模な県の放送局であれば、一体何を取り上げれば良いのやらという話になっても不思議ではない。
 次に、地域コンテンツを流すチャンネルの問題がある。外国の地上波放送で、日本の一地方を紹介する番組が放送されることは難しく、従ってケーブルチャンネルや衛星放送が主なアウトレットになる。アジアには日本の文化を紹介する専門チャンネルが存在する国もあるが、それにしてもコンテンツを露出する場は相当限られてしまう。チャンネルが確保できないと継続的にコンテンツを発信することができないので、この部分は総務省が支援しているのが現状だ。
 そもそも地域コンテンツはどうやってマネタイズできるのかという問題もある。リーチの小さいアウトレットでやっている以上、大きなビジネスにはなりにくい。それでも観光業など周辺産業は海外市場の顧客を獲得するためのツールとしてコンテンツを捉えられるだろうが、ローカル局にとってはコンテンツの売上がすべてだ。もちろん「儲からなくても地域のためにやる」という姿勢があれば素晴らしいが、民間放送である以上、当然ながら採算ベースで考えざるをえないのではないか。
 恐らく地域コンテンツの場合、コンテンツ自体がカネを稼ぐというよりも、コンテンツで関連産業がカネを稼ぐことを目標としている。その意味では経済波及効果を期待しているわけだが、今一つの問題点として、プロダクトプレイスメントをはじめとして、コンテンツ露出の周辺産業への効果は非常に測定が難しい点が挙げられる。前述のとおり、『北海道アワー』によって台湾から観光客が増えたというが、実際に番組視聴との相関はどれくらいなのだろうか。北海道を訪れた要因が件の番組視聴だけとは考えにくいが、あまり他の諸要因と比較検討されているわけでもなさそうだ。このように効果をはっきり数値で表すことが難しいからこそ、行政支援を求める声の高まりとは裏腹に、コンテンツ振興関連事業は仕分けや予算削減の対象になりがちなのであろう。
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プロフィール

大場吾郎

Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
Twitter:@obagoro

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