地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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11:20:41
 昨日、Netflixが今後2年で200か国に進出する目標を掲げた("Netflix accelerates global push as U.S. growth slows")。映画をはじめとする膨大なコンテンツをテレビ、PC、スマホ、タブレットなど様々なデバイスで、月9ドルほどで見放題で楽しめるアメリカの動画配信サービスNetflix。アメリカ国内だけで3,700万人(2014年9月)の契約者を抱えるNetflixのせいで、それまで長年かけて定着したテレビ視聴スタイルだったケーブルテレビ離れが進んだとか、ビデオレンタルというビジネスが壊滅したとか、あるいはNetflixはピーク時のインターネット・トラフィックの実に3分の1を占めるため、通信事業者に回線の優先利用料を払うことになったとか、何かと話題になることは多いが、アメリカ人のメディア利用に非常に大きな変革を起こして来たことは間違いない。日本でもコンテンツ配信といったテーマが議論される際、Netflixがしばしば事例として取り上げられている。実際、私も昨年春にアメリカから帰国して以来、Netflixの話を聞かれることが多い。
 Netflixの勢いを象徴的に語るのが、オリジナルコンテンツ製作である。2013年に配信された連続ドラマ『House of Cards』のシーズン1は昨年、アメリカ・テレビ界の最大の栄誉と言われるエミー賞に13部門でノミネートされた。この作品を見たいがためにNetflixに加入する人も多かったことは言うまでもない。それ以外にも、映画部門に進出し、今年公開予定の『Crouching Tiger, Hidden Dragon』(邦題・『グリーン・デスティニー』)続編の製作にも乗り出した。ここで議論を呼んだのは、Netflixが作品を劇場公開と同時に会員に無料配信することを打ち出した点である。今後は年間十数本の製作を予定している。こういった動きは、従来の映画コンテンツ展開、つまり劇場公開に始まり、時間差・価格差をコントロールしながらコンテンツをDVD・BDやテレビ放送など様々な媒体に展開していく、いわゆる「ウィンドウ戦略」のあり方を大きく変えることになる。もちろん、劇場興行主は反発していて、大手劇場チェーンが上映ボイコットを言い出したりもした("AMC Theaters Refuses to Show Netflix’s Crouching Tiger, Hidden Dragon Sequel")。ちなみに動画配信サービスでNetflixのライバルであるAmazonも映画製作に乗り出し、劇場公開の4〜8週間後にはプライムインスタント・ビデオで配信する予定である("Amazon to Produce and Acquire Movies for Theatrical, Online Release")。ケーブルテレビやレンタルビデオのみならず、映画興行にも影響を与えるとなると、NetflixやAmazonなどの動画配信サービスは最早全ての映像メディアを飲み込んで成長しているようにも見える。
 しかしNetflixに課題がないわけではない。2013年売り上げ(約44億ドル)のうち約30億ドルはコンテンツ調達費、つまり大手映画スタジオや番組制作会社への支払である。これに、上述の通信事業者への支払いが追い打ちをかける。こういったコスト高体質に加えて、アメリカでの成長はやや陰りが見える。2014年第4四半期は前年比で増収増益とはいえ、同年5月に実施した値上げの影響か、米国内の新規契約数は190万人で、前年の230万を下回ってしまった(もっともNetflixは価格変更後の新規加入者は主に所得の低い層であり、新価格設定と新規加入者の相関性は低いとしている)。
 そんな中、活路を見出そうとしているのが海外市場である。2010年から海外展開を行ってきたNetflixは現在アメリカ以外の約50か国にも2,000万人ほどの契約者を抱えるが、冒頭に記したように、今後2年で200か国に進出する目標を掲げた。そして、いよいよ今年は日本上陸という話も喧しい。私は放送業界にいる知人数名から、某企業が名乗りを上げたなどという話を聞いたが、微妙に内容が食い違っている。情報や噂が錯綜しているのかもしれないし、本当のところはわからない。ただ、冒頭の記事には具体的な国名として中国は記されているが、日本進出に関しては言及されていない。200か国にも進出するのであれば、日本は含まれていても当然と思えるが、果たして現在の日本市場はNetflixにとってどれほど魅力的な市場なのだろうか。1人当たりの可処分所得が高いことや、長年にわたってアメリカ映画の重要な市場であったこと、さらにはネット環境が整っていることや各種デバイスの普及が高いことなどは、進出の判断材料としては当然プラスに働くと考えられる。
 一方、不安材料と思われるのはどのような点だろうか。よく指摘されるのは、先日デロイトトーマツが発表したリポート「デジタルメディア利用実態グローバル調査2014」にもあるように、日本では(例えばアメリカの視聴者と比べて)、有料でコンテンツを消費するサービス自体に対して興味が低いという点である。実際、有料の動画配信サービスでこれまでのところ成功モデルはあまり見当たらない。一時期アメリカでNetflixと人気を二分していたHuluは2011年に日本進出し、昨年は日本テレビに買収された。契約者数や損益が明らかにされていないので経営状況は不明だが、実際の契約者に聞くとサービス自体の評判は悪くないものの、一般に浸透しているとは言いがたい。Netflixも少なくとも現段階で関心を持つのは業界関係者やITイノベーションの早期採用者が中心で、重要顧客になりそうなテレビ視聴者でいうところのF1/M1層でNetflixが日本へ来ることに期待するような人はかなり限られるのではないだろうか。そのようにあまり関心が高くない市場で月額1,000円程度の無名サービスを立ち上げ、会員を増やしていくのは非常に大変であると予想される。
 さらに日本独自の点を挙げると、いまだにレンタルビデオにニーズがある点も見逃せない。借りるのも返すのもわざわざ店舗に出向かなければならず、在庫に限りがあるため特に最新作などは貸し出し中で見られない可能性が高く、しかも延滞料金まで発生しうるサービスがアメリカで急速に衰退したのは、まさに動画配信サービスの発展と期を同じくしているわけだが、日本はレンタルビデオサービスにある程度満足している人は多いのではないだろうか。普段大学生と接していると、レンタルビデオ利用者は多いと感じる。
 恐らく世界市場での成功の試金石としてNetflixがHulu以上に注視しているのはHBOである。HBOとはアメリカの有名なプレミアムチャンネルで、サービス自体は日本のWOWOWのようなものだが、ケーブルテレビなど有料放送に加入しないと視聴できないため、これまでHBO視聴に対するニーズが有料放送加入の大きな要因になってきた経緯がある(もっとも近年のNetflixの急成長に慌てたHBOは今年から有料放送契約者以外に向けた動画配信も行うと発表した)。HBOは日本ではあまり馴染みがないと思われるが、他の多くの国ではNetflixよりはるかに知られている。実は2013年、Netflixがアメリカ国内の総契約者数でHBOを抜いたと大きなニュースになった経緯があるのだが、その時にHBOが強調したのは、世界規模で見た場合、HBOの方がはるかに多くの契約者数を持つという点だった("Netflix Surpasses HBO in U.S. Subscribers")。実際にその時点でのアメリカ以外での契約者はHBOの8,600万に対して、Netflixは710万に過ぎず、それ以降、Netflixは急速に海外展開に傾斜した。そのHBOはアジアでも積極的に展開しているものの、なぜか明白な理由はわからないが、日本には来ていない。HBOの親会社であるタイムワーナーはCNNやカートゥーンネットワークなど、その他のケーブルチャンネルの日本進出には熱心だったにもかかわらずである。
 海外のメディアが日本に進出する際、かねてから「日本は豊かで魅力的な市場だが、独特な嗜好や習慣があり難しい市場でもある」と言われることが多かった。長年にわたって日本の視聴者を涵養し、独特な市場を育ててきたのは地上波放送の力が大きいと思われるが、果たしてNetflixは重い扉を開けて入ってくるのだろうか。そして、アメリカでそうだったように日本のメディア消費に一石を投じることはできるのだろうか。
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プロフィール

Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
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