地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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21:54:13
 今年1月に制作が発表された時から注目していたアニメ『巨人の星』のインドでのリメイク版『スーラジ ザ・ライジングスター』(日印共作)が完成し、今月23日から現地で放送が始まる。貧しい家庭に生まれた主人公がスポーツに打ち込み、努力と根性で立身出世するという、1960年代後半から70年代初頭に日本の少年たちを夢中にさせたストーリーは、現代のインドの少年たちにも十分訴求すると考えられたようだ。その根拠として製作側は、高度経済成長に沸き、多くの若者が成功を夢見る現在のインドは原作が生まれた頃の日本と時代背景が似ていると説明する。
 でもそんな国は他にもあるし、例えば同じBRICsの中国で卓球話とかブラジルでサッカー話でもいいわけで、なぜインドなのかという疑問が残っていた。実は、この作品は日印国交樹立60周年を記念し、協力・後援に経済産業省や外務省、インド大使館や日本クリケット協会も名を連ねるというビッグ・プロジェクトであり、さらにインド市場でビジネス展開を進めたいスズキ、コクヨ、日清食品、全日本空輸、ダイキン工業などの日系企業がスポンサーについている。コンテンツを活用し、その他産業への経済波及効果を呼びたい経産省は、インド版『巨人の星』を「クール・ジャパン戦略」のモデル事業に位置付けているとか、なんかアニメの1作品がすごいことになっているのである。
 そもそも僕がこのリメイク話に興味を持ったのは、コンテンツ現地適応化の興味深い事例に思えたからだ。オリジナルのインパクトやメッセージを保ちながら、どこまでインド市場に合わせたものを作れるのか関心があった。実際、素材となるスポーツは、野球がインドではほとんど普及していないため、クリケットに替えられている。また、実際に完成した『スーラジ ザ・ライジングスター』を見ると、『巨人の星』とは絵の感じが似ておらず、どこか欧米のアニメーション作品のようである。キャラクターデザインも、主人公は星飛雄馬と全く似ていない(かといってインド人の若者という感じでもなく、どこの国の人かよくわからない)。
 『巨人の星』といえば、いくつかの象徴的な構成要素がある。オリジナルでは親子関係が重要で、星飛雄馬と父・一徹が共に成功を目指すわけだが、インド版では仲間と共に夢を追うストーリーになっている。また、大リーグボール養成ギブスも、インド側から「子どもへの虐待と受け取られかねない」と注文が付き、バネではなく、ゴム製の自転車チューブを使ったギブスに切り替えられた。さらに、父・一徹が激怒した際のちゃぶ台返し(実はたった一度しか作品中でひっくり返してはいないといわれるが、印象的なシーンである)も、「食べ物を粗末にすることは好ましくないし、現実にありえない」とインド側に拒否され、水が入ったコップだけがのったテーブル返しに替えられた。
 色々とオリジナルとの相違点を挙げたが、こういった修正はコンテンツ現地適応化の基本である。例えば、2009年に『鉄腕アトム』がアメリカでリメイクされた際、アメリカ側は市場リサーチの結果、オリジナルのアトムでは幼すぎると判断し、大人顔で八頭身のアトムを提案してきた。手塚プロが慌ててストップをかけたが、それでも双方が話し合って最終的に出来上がったキャラクターデザインはオリジナルのそれとはかなり異なっている印象を受けた。
 難しいのは、原作に込められたものに手を加えすぎてしまえば、全くの別物になる可能性がある点だ。そうなると、そもそもリメイクする意味が失われてしまう。オリジナリティを生かしながらも現代風に、そして異文化市場の人が楽しめるように変えることが望ましい…と、一般的にはそのような説明になるのだろうが、インドにおける『巨人の星』はアメリカにおける『アトム』と異なり、圧倒的多数の視聴者はオリジナル作品を知らないだろうし、あまりオリジナルのディテールにこだわっていてもしょうがないような気もした。『巨人の星』をリアルタイムで経験している日本側製作者の思い入れはわからなくもないが、案外インド人視聴者はギブスにもテーブル返しにも何の反応も示さないかもしれない。
 むしろ、この作品で非常に気になったのは、作品中に協賛スポンサーの影がちらちら見える点だ。例えば、インド版で花形満役の人物がスズキの車で登場し(エンブレムが映し出される)、空を全日空機が舞うシーンが毎週登場する。街の風景のシーンに映り込む看板もKOKUYO、DAIKIN、TOP RAMEN(NISSIN)…。でも、これは成人が見るドラマとか映画じゃなくて、青少年が主たる視聴者であるアニメ作品の話である。ちょっと露骨すぎないか?上のリンクのNHKニュースでは「日本が得意とするアニメを通じて日本の製品やサービスを売り込む取り組みとしても注目されています」などと持ち上げているが、現地では不評を買いそうな予感がしないでもない。アニメをコミック化するとか、キャラクターグッズ展開くらいに留めておけばいいのに。
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Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
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