地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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12:11:03
 アメリカのテレビ産業の中心に位置するのは、地上波放送ではなくてケーブルテレビではないかと思うことがある。ケーブル経由で地上波放送を見る人が圧倒的に少ない日本ではピンと来ない話かもしれないが、最近もアメリカの地上波放送局とケーブルテレビ会社の力関係を改めて考えさせられる事件が起きている。4大ネットワークの1つであるCBSの系列局がいくつかの地区で映らない、いわゆる「ブラックアウト状態」に陥っているのである。このような状態がもう2週間続いているので、当然ながら放送事故ではない。ある大手ケーブルテレビ会社がCBS系列局の放送を拒否しているのである。
 アメリカでは多くの世帯がケーブルテレビに加入している。以前のエントリー「アメリカのテレビ環境:ノーモア・ケーブルテレビ?」に書いたように、契約世帯数は減少傾向にあるが、それでも全体の60%くらいの世帯がケーブル経由でテレビ視聴を行っている。地上波放送もケーブルテレビ局が再送信するため、多くの家(我が家もそうなのだが)にはテレビアンテナが立っていない。このようなケーブル経由の地上波放送配信、いわゆる「再送信」に関しては元来「マストキャリー・ルール」なるものがあり、ケーブルテレビ局は原則としてカバーする地域の全ての地上波放送局の再送信を義務付けられている。再送信に対価は発生せず、ケーブルテレビ局は無料で地上波を再送信できるわけだが、地上波放送局にとってはケーブルに流してもらえないと多くの視聴世帯を失うことになるので、やむなしというところである。
 ところが近年、地上波放送局にとって別のオプションができた。ケーブルテレビ局に対して再送信料を請求することができるようになったのである。地上波放送以外のチャンネル、例えばCNNやMTVなどのケーブルチャンネルには基本的にケーブルテレビ局から配信料が払われているので、それに近い契約を選べるようになったわけである。広告収入の減少に悩む地上波放送にとっては正に渡りに船だが、1つ問題があった。ケーブルテレビ局が契約に同意しない場合、再送信そのものが行われないのである。
 「いくらなんでも、地上波が配信されないとなると、人気番組が見られなくなるわけで、ケーブルテレビ側だって困るんじゃないか」と思えなくもないが、地上波放送局とケーブルテレビ局の契約決裂が実際に起きて、アメリカではちょっとした事件になっている。事件の主役は地上波放送の老舗で現在視聴率トップのCBSと全米第2位の規模を誇るケーブルテレビ会社・タイムワーナーケーブル(TWC)である。TWCのケーブルテレビサービスの契約世帯は約1,200万世帯である。CBSは全国に系列局を持つので、大雑把にいって、アメリカの1,200万世帯がTWC経由でCBSを視聴可能と考えられる。実際にはすべてのTWC局がCBS再送信で揉めているわけではなく、ニューヨーク、ロサンゼルス、ダラスという3つのエリアだけだが、いずれも全米有数の巨大テレビ市場であり、総契約世帯数は300万世帯以上である(例えるなら、日本で全国展開しているケーブルテレビ会社が東京・大阪・広島に限ってどこかのキー局系列のチャンネルの再送信をやめるようなもの)。
 両者の再送信契約は6月末に切れ、その後更改交渉が長引いていた。原因はCBSが要求する再送信料で、詳細な金額は明らかになっていないが、これまで1契約世帯あたり$1だったのを$2に引き上げようとしているとか、前代未聞の法外な金額を要求したとか、色々噂されている(ちなみに配信料が最も高いケーブルチャンネルESPNは1世帯あたり月$5.54と言われる)。幸いなことに我が家はニューヨークでもTWC以外のケーブルテレビ局のカバーエリアなので、この件の被害を受けること少なさそうだが、7月中旬からCBSを見ていると、TWCへの抗議CMが目に見えて増えた。「このままでは『The Big Bang Theory』や『Big Brother』、『60 Minutes』やNFLの中継が見られなくなりますよ。TWCに電話してCBSを落とさないように嘆願しよう」といった類の内容である。CBSの夜のトークショーの司会者・デヴィッド・レターマンも番組でネタにしていた。決定権はあくまでTWCにあるので、CBSには焦りの色が見える。
 しかし期限を迎えても交渉はまとまらず、8月2日午後5時、ついに上記3都市のTWC契約者はCBSを見られなくなった。同時にTWCはCBS傘下のケーブルチャンネルも配信を中止した。それから2週間が経過したが、ブラックアウト状態は続く。一方、この事件の余波といえるような出来事も起きている。まず、CBSを見るために急遽、屋外にアンテナを立てる人が出てきた。また、ブラックアウトの3地区では、CBSの視聴率が落ちた。夕方のローカルニュースの視聴者数が前の週に比べてロサンゼルスでは33%、ダラスでは19%落ち込み、ニューヨークでも夜のニュースで17%の減少を記録している。また、昨日(8月14日)はロサンゼルスの視聴者がTWCを集団訴訟したことが明るみになった。「CBSを見られなくなることを知っていたらTWCとは契約しなかった」というのが彼らの主張である。
 ケーブルテレビが実質的に視聴者へのリーチにおけるボトルネックになっているのだから、地上波放送はケーブルテレビ会社より立場が弱い(4大ネットワークの1つNBCは今や最大手ケーブルテレビ会社・コムキャストに所有されている)。もっともアメリカの場合、日本と違って、地上波放送の人気番組の多くは局のサイトで配信されているので、ブラックアウトになってもネットで番組を見られそうなものだが、今回の場合なんとCBSはTWCのネットユーザーのCBSサイトへのアクセスを拒否している。CBSは比較的人気番組が多いが、テレビ以外のアウトレットをあえて閉じることで、視聴者の番組への飢餓感、そしてその解消のためにケーブル復帰を望む声を高めようとしているように見える。
 有利に事を進めているように見えるTWCも実は苦しいのかもしれない。以前のエントリーで記したように、ケーブルテレビ契約者は減り続け、いまや「コードカット」という言い方が定着しつつある。人々にケーブル離れを起こさせている主要因は上がり続ける契約料だが、その多くは今回火種になっているような各チャンネルへの高すぎる配信料に起因するのである。いずれにせよ、今回の事件の被害者はCBSとTWC間の金儲けのための争いに翻弄される多くの視聴者である。どのような形で決着がつくのか、注視したいと思う。
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Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
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