地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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11:57:09
 前回のエントリー「地上波放送ブラックアウトから2週間」でも取り上げた、アメリカ大手ケーブル会社・タイムワーナーケーブル(TWC)による地上波ネットワーク・CBSの再送信停止だが、揉めていた再送信料に関して両者が合意に達し、約1か月続いたブラックアウトが9月2日ようやく解除された。何百チャンネルあるケーブルテレビのラインアップから現在視聴率1位の地上波ネットワークが抜け落ちるという異常事態はなんとか終焉を迎え、ニューヨークやロサンゼルスのTWC契約者も再びCBSが見られるようになった。
 この夏、アメリカのメディア関係の雑誌などで大きく取り上げられた今回のブラックアウトだが、日本の視聴者にとっては所詮遠い外国の出来事だし、日本に直接影響がなさそうなこともあって、それほど報道されていないようだ。解除の件も日経新聞が簡潔に伝えているくらいだ。
 結局TWCとCBSのどちらが折れたかというと、TWC側であり、従って懸案だった再送信料収入の増加を勝ち取ったCBSを勝者とする報道をアメリカでは目にする。CBSはニューヨーク、ロサンゼルス、ダラスという巨大市場の320万世帯で、これまでTWCから払われていた1世帯当たり56セント(1か月あたり)の再送信料を一気に2ドルにまで引き上げることに成功したわけで、これだけで、これまで月に約179万ドルだったTWCからの収入が約640万ドルへ、実に250%の増加である。
 この1か月CBSを見ていると、やたらとこの件に関するスポットCMが流れていた。最初はただTWCを非難するような内容が多く、CBSが相当焦っているように見えた。CBSにすれば、約60%の世帯がケーブル経由でテレビを見ているアメリカにおける超重要なプラットフォームを失うわけだから、焦るのも無理はない。一方、TWCは「再送信料の額を不満に思うなら別にいい。CBSを排除するだけだ」と超然としている感じに見えた。ところがCBSは途中からスポットCMにおける攻撃点を変えてきていた。ちょうど秋は新しいドラマのシリーズに加えて、NFL(フットボールのプロリーグ戦)というキラーコンテンツの放送が始まるシーズンである。CBSは「このままではドラマやNFLが見られなくなりますよ。それが嫌なら、TWCを解約して、衛星放送やIPTVなど他の多チャンネルメディアへ切り替えよう」と訴え始めたのである。
 これはTWCにとっての泣き所をうまく突いていた。TWCに限らず、ケーブル各社は今日「コード・カッター」と呼ばれる解約者が続出していることに頭を抱えているわけで、最も触れられたくない点ともいえるだろう。解約の最大の原因は高すぎるケーブル契約料金だ。ところが、その高い契約料を引き起こす主要因となっているのは、今回問題になっているような各ネットワークへの支払いなのである。ケーブル会社にとっては、契約者離れは阻止したい、さりとて契約料の上昇は如何ともしがたい…これこそが現在彼らが抱えているジレンマである。同時に、消費者にとっては確かに今回のブラックアウトはケーブル契約の是非を見直す良い機会になったのかもしれない(一体、どれくらいのTWC契約者が離れたのか気になる点である)。
 でも、もう少し大局的に見るならば、CBSにとってもそれほど喜ぶべき結末ではないのかもしれない。CBSの増収分をだれが負担するのか。言うまでもなく、視聴者である。恐らく視聴者の間には「ああ、CBSが見られるようになってよかった」っていう安堵感よりも、「またケーブル料金が上がるんじゃないか」っていう不安感の方が大きいんじゃないだろうか。他のネットワークの中にも今回のCBS同様、配信料でゴネ始めるところも出てくるかもしれない。今回の件で、ケーブルであれ、ネットワークであれ、既存のテレビに対する視聴者のウンザリ感は増すだろう。
 競争促進は、公共の利益や多様性確保に並ぶ、アメリカのメディア政策の基本理念の1つである。元々、テレビメディア産業は地上波3大ネットワークの寡占状態にあったが、多チャンネル型ケーブルテレビが広がる中で、ネットワークの数が飛躍的に増え、3大ネットワークの地位は相対的に低下した。続いて多チャンネルサービスにおける独占的存在になったケーブルテレビに対して、衛星放送やIPTVといった多チャンネルメディアが競争相手となって成長してきた。過去15年ほどアメリカの放送メディアと向き合う中で、このような日本では見られない競争のダイナミックさに感心することは少なくなかったが、今回のブラックアウトのような件を目の当たりにすると、本来視聴者のための競争すべきプレイヤーたちが、視聴者不在のマネーゲームに血道をあげているというような、近年批判の対象となってきた点をあらためて思い知る。やっぱり結果的に「テレビはもういいや」という気分が蔓延しても不思議じゃない。同時に、アラカルトに見たいものだけを選んで対価を払うメディアの存在が、より貴重なものに思えてくる。
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大場吾郎

Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
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