地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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14:19:05
 北は北海道から南は九州・沖縄まで同じ時間に流れる番組を「全国ネットの番組」と呼ぶ。圧倒的多くの場合、全国ネットの番組は東京のテレビ局(キー局)が製作したもので、それを全国各地の系列局が放送する。例えば、日本テレビが作った番組を北海道は札幌テレビ、青森は青森放送、…鹿児島は鹿児島讀賣テレビが放送するといった具合である。キー局といえども放送電波が届くのは関東一円だけなので、このように各地のローカル局を介して初めて日本全国の家庭に1つの番組を届けることができる。
 さて、このように全国ネットの番組の多くは東京のキー局から全国のローカル局に供給されるわけだが、この時、「カネの流れ」はどのようになっているだろうか。通常の取引の感覚だと、番組の対価としてローカル局がキー局に払うと考えられそうだが、実際はその逆である。つまり、ローカル局はキー局から番組だけでなく、カネも与えられているのである。
 このカネは業界では「ネットワーク費」とか「電波料」などと呼ばれるが、なぜこのような一見不可思議なカネの流れが発生するのだろうか。簡単にいうと、全国ネットの番組は全国に向けて自社製品を宣伝したい企業のCMも含んだ形でキー局からローカル局に渡されることが多い。このような状態をローカル局側から見ると、本来ならば自分たちが独自にスポンサーを見つけて販売できるはずのCM枠が既に埋まってしまっていることになる。そのような機会損失をキー局が補填するためにカネが払われているわけで、従って、キー局はカネを払って各ローカル局に当該地域で番組とCMを流してもらっていると言った方が適切かもしれない。かつてテレビ局に勤務していた時、このような構造を知って非常に驚いた記憶がある。CMスポンサー、キー局、ローカル局、これら3者が皆得する仕組みがうまくできてるなあ、と感心したわけである。
 一方で「番組が与えられる上にカネまで貰えるんじゃ、ますますローカル局は自分たちで番組を作るなどの自助努力をしなくなる」、「キー局支配下のピラミッド構造の下ではローカル色が薄れる一方だ」という批判が聞かれることがあるのは、上記のような構造が番組流通の根幹にあるためだろう。ローカル局が努力しているか否かは何とも言えないが、その生殺与奪をキー局が握っていることは間違いなさそうだ。ただ、キー局もかつてのように全国CMスポンサーが殺到する状況ならともかく、今日ではネットワーク費を各系列局に配分することはそれなりの負担になっているはずである。
 さて、長々とキー局・ローカル局間の全国ネット番組供給にかかるカネの流れを説いた。実はアメリカにも、日本同様に「ネットワーク費」のようなものが存在したが、現在は実質的に廃止の方向へ向かっている(アメリカにはキー局が存在しないため、全国ネット番組はネットワークと各ローカル局間の取引になる)。メディア調査会社のSNL Saganによると、1996年に合計で6億700万ドルだったネットワーク費は2012年には2,510万ドルにまで急減している。しかも、ローカル局にネットワーク費が払われないようになっただけでなく、逆にローカル局がネットワークに番組対価を支払うようになってきているのである。かといって系列局が自由に販売できるCM枠が増えているわけでもなく、相変わらず番組とネットCMは一体で渡される。日本のローカル局に勤務する友人によると、このような状況に追い込まれれば、日本の多くのローカル局は経営が立ちいかなくなると話していたが、ではなぜアメリカのローカル局(系列局)はネットワーク費廃止でも存続可能なのか。それはアメリカのローカル局の場合、ケーブルテレビや衛星放送など、地上波放送を再送信している有料放送プラットフォームから払われるカネ(再送信料)が広告と並ぶ大きな収入源になっているからである。前出のSNL Saganによると2010年に合計で約11億ドルだった再送信料は17年には約36億ドルまで上昇すると予想されている。
 このような状況の下、ネットワークはローカル局に対して「君たちはケーブルテレビから再送信料をもらっているが、それは私たちの人気番組を流しているからだ。再送信料の何%かをネットワークに収めなさい」と主張し始めた。簡単に言えば、「分け前をよこせ」という話である。
 日本の場合、ネットワーク費はローカル局の収入の30%ほどを占める場合があると聞いた記憶があるが、アメリカだと、特に規模の大きいローカル局ほど、ネットワークへの依存は収入面というよりもコンテンツ供給面において顕著で、コンテンツを卸してくれるネットワークには頭が上がらない(以前は力関係が逆だったが、今やネットワークが番組を視聴者に届けるにあたって必ずしもローカル局に頼らなくても良くなってきた)。一方、収入面では、ローカル局はケーブルテレビなどのプラットフォームからの再送信料収入を増やすことに執心している。
 そんな中、ローカル局とケーブルテレビに間では、再送信契約を巡って揉めるケースが発生している。今夏、アメリカのメディア界で大きな話題となったのは、タイムワーナー・ケーブル(TWC)によるCBSブラックアウトだった(詳しくは過去のエントリー「地上波放送ブラックアウトから2週間」「アメリカ・地上波放送ブラックアウトの結末」をご参照下さい)。CBS系列局がTWCに対して、1世帯当たり56セント(1か月あたり)の再送信料を一気に2ドルにまで引き上げることを要求し、それを当初拒否したTWCがニューヨークなどでCBSの再送信を停止したのだが、視聴者の反発は大きく、結局再送信料値上げに応じた。これだけで、TWCから件のCBS数局への収入はそれまの一月約179万ドルから約640万ドルへ、実に250%も増加した。
 この件では、アメリカの視聴者はケーブル側に批判的な声が多かったようだが、それは単に「好きなCBSの番組が見られない」という理由によるものだった。ただその一方で、ローカル局へ支払う再送信料上昇がケーブル契約料金に反映されることは明らかである。こうなってくると、ますます「地上波放送は無料で見られる」って感覚が希薄になっていく。そして、ケーブル料金の高騰がケーブルテレビ離れを加速させていく。アメリカで起きているケーブルテレビ離れは、以前「アメリカのテレビ環境:ノーモア・ケーブルテレビ」という記事に書いたように、NetflixやHuluといったストリーミング動画配信サービスが原因として語られることが多いが、実はそういった「ケーブルテレビ対動画サービス」というテレビ業界を超えた対立軸だけでなくて、「ローカル局対ケーブルテレビ」という、テレビ業界内の対立軸も見る必要があるようだ。  
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Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
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