地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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12:43:09
 アメリカの日本番組チャンネルで『半沢直樹』最終回の放送が終わってからまだ10日ほどしか経っていないので、いまだにあの作品の視聴感が頭の中に鮮烈に残っている。そんな中、「日本で話題のドラマ『半沢直樹』、新年初日韓国放映」というニュースが入ってきた。僕は昨年、日本のテレビ番組の韓国での放送・受容に関しては恐らく日本で唯一の書物を上梓しているので、こういった動きは当然要注意である。
 あまり知られていないかもしれないが、実は韓国の地上波放送では日本のドラマが放送されることはない。別に放送法で日本のドラマの放送が禁じられているわけではない。ただ、その一方で国民感情を損なわせる番組の放送は禁じられており、日本のドラマはそれに該当すると捉えられる可能性が高いため、放送事業者は誰も敢えて危険を冒して放送しようとはしない。日本に関しては言論の自由をいとも簡単に放棄してしまう、いかにも韓国メディアらしい論理である。
 以上のようなロジックで長年にわたってドラマのみならず、日本の大衆文化は韓国から締め出されてきたのだが、15年前から徐々に正式に開放されるようになり、ドラマも9年前からケーブルチャンネルでは放送されるようになった。しかし、ケーブルテレビでの放送だけではいかんせんリーチは限定的で、一作品が大きなブームにはなりにくい(対照的に『冬のソナタ』はNHKが衛星放送~地上波放送することで人気が頂点に達した)。韓国ではこれまで200タイトル以上の日本のドラマがケーブルで放送されてきたものの、多くの作品が視聴率1%に遠く及ばない惨憺たる結果に終わっている。
 こういった結果を持って、韓国の紙媒体などは「日本のドラマは韓国では受けない」などと断定してきた。しかし実は、日本のドラマの多くは日本での放送直後に韓国の動画サイトに韓国語字幕付きで違法にアップロードされ、日本のドラマに関心がある若者の多くの需要を満たしているのである。それから何か月か経って、ケーブルチャンネルで正規に放送されても、視聴者数が頭打ちなのは当然である。日本の番組販売側も韓国の番組購入側もそのことを熟知しているので、積極的に日本のドラマ売買に乗り出さない。つまり、表向きの規制を隠れ蓑に違法動画が隆盛を極め、結果的に正規ビジネスが成立しないという、コンテンツ事業者にとっては非常に劣悪な市場環境に陥っているのである。
 そんな中、日本で40%を超える視聴率を叩きだした『半沢』の韓国登場である。タイトルは「한자와나오키(ハンジャワナオキ)」(韓国語の発音には「ザ」の音がない)。例の名セリフ「やられたらやり返す。倍返しだ」も「당한 만큼 갚아준다. 배로 갚는다」と韓国語になっている。予告動画を見ると半沢っぽい声の人が起用されているようだが、実際は吹替え版と字幕版の2バージョンがあるようだ。
 さて、『半沢』は韓国で成功を収めることができるだろうか。『半沢』は10月には台湾や香港でも放送され、相当な人気を誇ったようだが、それらの国・地域と韓国とでは、一般的に日本の番組視聴をめぐる諸要因が違う。もちろん韓国の方がハードルは高い。
 理不尽な会社組織内部での不正や派閥争い、あるいは勧善懲悪などは、韓国人視聴者にも理解しやすいどころか、恐らく好まれる要素だと思う。ややマンガっぽいところがどのように捉えられるかわからないが、出演者が一様に演技派なのは好評価だろうし(韓国では日本のドラマは演者が下手と広く信じられている)、激しい感情吐露も韓国人好みだろう。一方、上司に楯突くシーンとか恋愛要素の少なさは韓国人視聴者にはぴんと来ないかもしれない。
 しかし、こういった要素は、もし『半沢』が韓国で成功すれば肯定的要因として、逆に失敗すれば否定的要因として見なされるように、結果次第で解釈が変わりうる。例えば、上司に楯突くシーンも、もし作品が成功すれば「韓国人には見慣れないが、その分新鮮に映った」、失敗すれば「あれはやり過ぎで、韓国人の情緒には合わない」と評されるかもしれない。コンテンツの海外展開の成功・失敗要因を作品の中身だけで分析しようとすると、どうしてもそういった後付けの恣意的解釈に終始してしまいがちである。数年前に日本映画『おくりびと』がアカデミー賞外国語映画賞を獲った時も、下馬評では納棺師という仕事が外国人に理解できるか懐疑的な声が多かったが、賞を獲った後は「死に向き合う姿勢は文化や国境を越えて広くアピールした」などと評価されていたのである。
 実の所、海外市場でのコンテンツの成功・失敗は、作品の中身もさることながら、どれだけ視聴者の関心を喚起できるか、そして、コンテンツがどういう状態で視聴者や観客に届けられるかによる部分が非常に大きいと思う。極端な話、駄作でも話題性作りと宣伝でセールスはある程度伸ばすことが可能である。では、韓国における『半沢』はどうだろうか。予告動画では、最終回が日本で42.2%の視聴率を取ったことを強調している。ハリウッド映画によく見られる、本国でどれだけヒットしたかをクオリティの裏付けに使う手法である。しかし、出演者が現地を訪れるなどのプロモーションはいつものように行われないようだ(外国市場にコンテンツを売り込む時、実はこの手法は有効なのだが…)。
 一方、なんといっても大きな懸案事項は、そもそもこの作品に関心があると思われる視聴者の多くは、先述のように違法動画で既に視聴済みである可能性が高い点である。日本での放送から時差なく、動画サイトで『半沢』を見た視聴者が数か月後ケーブルチャンネルで再び見るだろうか。そこに何か新しいプラスの要素があれば良いのだが、リアルタイム視聴に縛られるというマイナス要素はあっても、プラス要素はなかなか思い浮かばない。このように考えると、『半沢』のように非常によく作られていて、実際に日本や台湾・香港でも成功を収めたドラマをもってしても、韓国市場での商業的成功は難しいのかと、なんとも無念な気持ちになる。違法動画が圧倒的な速さで流通し、正規ビジネスが成立しないという異常事態が改善される日は来るのだろうか。

 
 
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大場吾郎

Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
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