地殻変動が起きているメディア環境を観察し、そこで流通するコンテンツを批評
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12:58:02
 毎週『半沢直樹』を見るのを楽しみにしている…などと言うと、一体いつの話をしてるんだと思われそうだが、今現在の話である。アメリカの日本語番組チャンネル「テレビジャパン」でも10月中旬から毎週一話ずつ『半沢』の放送が始まり、今週で第4話が終わった所である。話数は全10話なので、今年中には最終回を迎えられそうだ。
 テレビジャパンと言っても知らない人は多いと思うが、北米で日本の番組を放送しているチャンネルで、NHKエンタープライズや伊藤忠などが運営している(ヨーロッパにも似たようなチャンネルのJSTVがある)。チャンネルは1つしかなく、当然NHK番組中心の編成だが、民放番組も遍在する(例えばテレビ朝日『ミュージックステーション』など)。視聴には衛星放送やケーブルテレビ、IPTVなど多チャンネルメディア契約が必要だが、ベーシックパックには含まれていないので、別途オプションとしてチャンネル契約が必要となる。
 ちなみに我が家の場合、毎月ケーブルテレビ視聴料は$40ほどだが、それ以外にテレビジャパン視聴のために$25ほど払っている。日本でNHK受信料が地上波放送のみで月1,200円程度、BSを足しても月2,200円程度なので、テレビジャパンの料金はかなり高額に感じる。少なくとも我が家的には費用対効果が良くない。日本の番組を放送する唯一のチャンネルで、しかもNHKと民放番組の混合編成となると、それこそ日本の人気番組がラインアップに並んでいそうな気もするかもしれないが、実際の編成はこんな感じ。我が家の場合はニュースをリアルタイムで視聴するために契約はしているが、その他に見る番組は少ない。しかも肝心のニュースもスポーツや海外映像は「放映権の関係でご覧頂けない」などという「お断り静止画面」に切り替わって、毎度がっかりしてしまう。このようなチャンネルだけのために月々日本円にして2,500円程度を払っているわけである。
 僕は別に熱心なドラマウォッチャーではないが、さすがに『半沢』のような、日本であれだけ話題になったドラマは見てみたいとずっと思っていたところ、上述のようにようやく放送が始まった次第である。現実的には日本での放送と時差なく海外で放送するのはなかなか難しいとは思うが、台湾の日本番組専門ケーブルチャンネル(日本人というより台湾人視聴者向け)の場合だと『半沢』は今月7日に始まり、18日にはすでに最終回まで放送している。恐らく1日1話放送されたと思われる。それに比べて、これだけネット等でネタバレしまくっているのに、毎週1話ずつしか放送しないテレビジャパン…在留邦人視聴者という安定市場(といってもその数は減っていると聞くが)に支えられた唯一の日本番組専門チャンネルでは所詮こんなものか。
 それでもテレビジャパンで『半沢』を毎週1話ずつ見るしかないのは、他に妥当な視聴方法がないからである。ネットでは配信されていないし、仮に日本国内で正規に配信されていたとしても、国外からはアクセスできないだろう。中国や韓国の動画サイトを検索すれば、違法にアップされたものが見つかるかもしれないが、探すのが面倒くさいし、そういうサービスを容認してもいけないと思うのでパス。ロケーションフリーって方法もあるが、色々と複雑そうなのでこれもパス。そもそも既に日本の家を出てしまっているので、機材も設置しようがない。
 しかし、実は1つ方法がある。レンタルDVDである。アメリカにある日系スーパーマーケットであれば、どこの店もレンタルDVDサービスを行っていて、日本ではDVD化されていないラマやバラエティ番組も見事に揃っている。このようなサービスは昔からあり、かつてはVHSだったが当然今ではDVDが主流になっている。下の写真のように『半沢』も揃っている。『半沢』はまだ日本でDVD化されていないのだが、なぜ?

写真 (1)

 なにせパッケージのチープな感じからも怪しい感じがするが、別に海賊版を扱う違法サービスではない。放送番組著作権保護協議会(放番協)が中心になって在米邦人向けサービスとして行っている事業(「放番協認定ビデオ供給事業」)で、DVDもきちんと権利処理がなされている。そもそも放番協とは、日本脚本家連盟(日脚連)が中心になって設立された団体である。とかく権利処理に厳しいと言われる日脚連が率先してやっている事業がこのDVDレンタル業というわけだが、1泊2日で$1のレンタル料金ではディスク代、コピー代、パッケージ代、輸送費などを除けばほとんど儲けもなく、従って著作権者・著作権隣接権者への配分もなく(報告は上がってくる)、知り合いの関係者は「慈善事業みたいなものだ」と話していた。
 日本のテレビ番組を見られない在米邦人のために、そのような慈善事業を続けてくれるとはなんとも有難いが、やはり前時代的な感じは否めない。実際、どれくらい利用者がいるのか不明だが、さすがに今日ではネットを使った有料ストリーミングサービスにしてくれた方がユーザーにとっては利便性が高いはず。要は日本からのアクセスを制限できればいいんだろうし、その方が低コストも実現できそう。だいたいアメリカでは「レンタルDVD」という事業形態自体が消滅しているわけで、「郷に入れば郷に従え」ってことで。

11:57:09
 前回のエントリー「地上波放送ブラックアウトから2週間」でも取り上げた、アメリカ大手ケーブル会社・タイムワーナーケーブル(TWC)による地上波ネットワーク・CBSの再送信停止だが、揉めていた再送信料に関して両者が合意に達し、約1か月続いたブラックアウトが9月2日ようやく解除された。何百チャンネルあるケーブルテレビのラインアップから現在視聴率1位の地上波ネットワークが抜け落ちるという異常事態はなんとか終焉を迎え、ニューヨークやロサンゼルスのTWC契約者も再びCBSが見られるようになった。
 この夏、アメリカのメディア関係の雑誌などで大きく取り上げられた今回のブラックアウトだが、日本の視聴者にとっては所詮遠い外国の出来事だし、日本に直接影響がなさそうなこともあって、それほど報道されていないようだ。解除の件も日経新聞が簡潔に伝えているくらいだ。
 結局TWCとCBSのどちらが折れたかというと、TWC側であり、従って懸案だった再送信料収入の増加を勝ち取ったCBSを勝者とする報道をアメリカでは目にする。CBSはニューヨーク、ロサンゼルス、ダラスという巨大市場の320万世帯で、これまでTWCから払われていた1世帯当たり56セント(1か月あたり)の再送信料を一気に2ドルにまで引き上げることに成功したわけで、これだけで、これまで月に約179万ドルだったTWCからの収入が約640万ドルへ、実に250%の増加である。
 この1か月CBSを見ていると、やたらとこの件に関するスポットCMが流れていた。最初はただTWCを非難するような内容が多く、CBSが相当焦っているように見えた。CBSにすれば、約60%の世帯がケーブル経由でテレビを見ているアメリカにおける超重要なプラットフォームを失うわけだから、焦るのも無理はない。一方、TWCは「再送信料の額を不満に思うなら別にいい。CBSを排除するだけだ」と超然としている感じに見えた。ところがCBSは途中からスポットCMにおける攻撃点を変えてきていた。ちょうど秋は新しいドラマのシリーズに加えて、NFL(フットボールのプロリーグ戦)というキラーコンテンツの放送が始まるシーズンである。CBSは「このままではドラマやNFLが見られなくなりますよ。それが嫌なら、TWCを解約して、衛星放送やIPTVなど他の多チャンネルメディアへ切り替えよう」と訴え始めたのである。
 これはTWCにとっての泣き所をうまく突いていた。TWCに限らず、ケーブル各社は今日「コード・カッター」と呼ばれる解約者が続出していることに頭を抱えているわけで、最も触れられたくない点ともいえるだろう。解約の最大の原因は高すぎるケーブル契約料金だ。ところが、その高い契約料を引き起こす主要因となっているのは、今回問題になっているような各ネットワークへの支払いなのである。ケーブル会社にとっては、契約者離れは阻止したい、さりとて契約料の上昇は如何ともしがたい…これこそが現在彼らが抱えているジレンマである。同時に、消費者にとっては確かに今回のブラックアウトはケーブル契約の是非を見直す良い機会になったのかもしれない(一体、どれくらいのTWC契約者が離れたのか気になる点である)。
 でも、もう少し大局的に見るならば、CBSにとってもそれほど喜ぶべき結末ではないのかもしれない。CBSの増収分をだれが負担するのか。言うまでもなく、視聴者である。恐らく視聴者の間には「ああ、CBSが見られるようになってよかった」っていう安堵感よりも、「またケーブル料金が上がるんじゃないか」っていう不安感の方が大きいんじゃないだろうか。他のネットワークの中にも今回のCBS同様、配信料でゴネ始めるところも出てくるかもしれない。今回の件で、ケーブルであれ、ネットワークであれ、既存のテレビに対する視聴者のウンザリ感は増すだろう。
 競争促進は、公共の利益や多様性確保に並ぶ、アメリカのメディア政策の基本理念の1つである。元々、テレビメディア産業は地上波3大ネットワークの寡占状態にあったが、多チャンネル型ケーブルテレビが広がる中で、ネットワークの数が飛躍的に増え、3大ネットワークの地位は相対的に低下した。続いて多チャンネルサービスにおける独占的存在になったケーブルテレビに対して、衛星放送やIPTVといった多チャンネルメディアが競争相手となって成長してきた。過去15年ほどアメリカの放送メディアと向き合う中で、このような日本では見られない競争のダイナミックさに感心することは少なくなかったが、今回のブラックアウトのような件を目の当たりにすると、本来視聴者のための競争すべきプレイヤーたちが、視聴者不在のマネーゲームに血道をあげているというような、近年批判の対象となってきた点をあらためて思い知る。やっぱり結果的に「テレビはもういいや」という気分が蔓延しても不思議じゃない。同時に、アラカルトに見たいものだけを選んで対価を払うメディアの存在が、より貴重なものに思えてくる。

12:11:03
 アメリカのテレビ産業の中心に位置するのは、地上波放送ではなくてケーブルテレビではないかと思うことがある。ケーブル経由で地上波放送を見る人が圧倒的に少ない日本ではピンと来ない話かもしれないが、最近もアメリカの地上波放送局とケーブルテレビ会社の力関係を改めて考えさせられる事件が起きている。4大ネットワークの1つであるCBSの系列局がいくつかの地区で映らない、いわゆる「ブラックアウト状態」に陥っているのである。このような状態がもう2週間続いているので、当然ながら放送事故ではない。ある大手ケーブルテレビ会社がCBS系列局の放送を拒否しているのである。
 アメリカでは多くの世帯がケーブルテレビに加入している。以前のエントリー「アメリカのテレビ環境:ノーモア・ケーブルテレビ?」に書いたように、契約世帯数は減少傾向にあるが、それでも全体の60%くらいの世帯がケーブル経由でテレビ視聴を行っている。地上波放送もケーブルテレビ局が再送信するため、多くの家(我が家もそうなのだが)にはテレビアンテナが立っていない。このようなケーブル経由の地上波放送配信、いわゆる「再送信」に関しては元来「マストキャリー・ルール」なるものがあり、ケーブルテレビ局は原則としてカバーする地域の全ての地上波放送局の再送信を義務付けられている。再送信に対価は発生せず、ケーブルテレビ局は無料で地上波を再送信できるわけだが、地上波放送局にとってはケーブルに流してもらえないと多くの視聴世帯を失うことになるので、やむなしというところである。
 ところが近年、地上波放送局にとって別のオプションができた。ケーブルテレビ局に対して再送信料を請求することができるようになったのである。地上波放送以外のチャンネル、例えばCNNやMTVなどのケーブルチャンネルには基本的にケーブルテレビ局から配信料が払われているので、それに近い契約を選べるようになったわけである。広告収入の減少に悩む地上波放送にとっては正に渡りに船だが、1つ問題があった。ケーブルテレビ局が契約に同意しない場合、再送信そのものが行われないのである。
 「いくらなんでも、地上波が配信されないとなると、人気番組が見られなくなるわけで、ケーブルテレビ側だって困るんじゃないか」と思えなくもないが、地上波放送局とケーブルテレビ局の契約決裂が実際に起きて、アメリカではちょっとした事件になっている。事件の主役は地上波放送の老舗で現在視聴率トップのCBSと全米第2位の規模を誇るケーブルテレビ会社・タイムワーナーケーブル(TWC)である。TWCのケーブルテレビサービスの契約世帯は約1,200万世帯である。CBSは全国に系列局を持つので、大雑把にいって、アメリカの1,200万世帯がTWC経由でCBSを視聴可能と考えられる。実際にはすべてのTWC局がCBS再送信で揉めているわけではなく、ニューヨーク、ロサンゼルス、ダラスという3つのエリアだけだが、いずれも全米有数の巨大テレビ市場であり、総契約世帯数は300万世帯以上である(例えるなら、日本で全国展開しているケーブルテレビ会社が東京・大阪・広島に限ってどこかのキー局系列のチャンネルの再送信をやめるようなもの)。
 両者の再送信契約は6月末に切れ、その後更改交渉が長引いていた。原因はCBSが要求する再送信料で、詳細な金額は明らかになっていないが、これまで1契約世帯あたり$1だったのを$2に引き上げようとしているとか、前代未聞の法外な金額を要求したとか、色々噂されている(ちなみに配信料が最も高いケーブルチャンネルESPNは1世帯あたり月$5.54と言われる)。幸いなことに我が家はニューヨークでもTWC以外のケーブルテレビ局のカバーエリアなので、この件の被害を受けること少なさそうだが、7月中旬からCBSを見ていると、TWCへの抗議CMが目に見えて増えた。「このままでは『The Big Bang Theory』や『Big Brother』、『60 Minutes』やNFLの中継が見られなくなりますよ。TWCに電話してCBSを落とさないように嘆願しよう」といった類の内容である。CBSの夜のトークショーの司会者・デヴィッド・レターマンも番組でネタにしていた。決定権はあくまでTWCにあるので、CBSには焦りの色が見える。
 しかし期限を迎えても交渉はまとまらず、8月2日午後5時、ついに上記3都市のTWC契約者はCBSを見られなくなった。同時にTWCはCBS傘下のケーブルチャンネルも配信を中止した。それから2週間が経過したが、ブラックアウト状態は続く。一方、この事件の余波といえるような出来事も起きている。まず、CBSを見るために急遽、屋外にアンテナを立てる人が出てきた。また、ブラックアウトの3地区では、CBSの視聴率が落ちた。夕方のローカルニュースの視聴者数が前の週に比べてロサンゼルスでは33%、ダラスでは19%落ち込み、ニューヨークでも夜のニュースで17%の減少を記録している。また、昨日(8月14日)はロサンゼルスの視聴者がTWCを集団訴訟したことが明るみになった。「CBSを見られなくなることを知っていたらTWCとは契約しなかった」というのが彼らの主張である。
 ケーブルテレビが実質的に視聴者へのリーチにおけるボトルネックになっているのだから、地上波放送はケーブルテレビ会社より立場が弱い(4大ネットワークの1つNBCは今や最大手ケーブルテレビ会社・コムキャストに所有されている)。もっともアメリカの場合、日本と違って、地上波放送の人気番組の多くは局のサイトで配信されているので、ブラックアウトになってもネットで番組を見られそうなものだが、今回の場合なんとCBSはTWCのネットユーザーのCBSサイトへのアクセスを拒否している。CBSは比較的人気番組が多いが、テレビ以外のアウトレットをあえて閉じることで、視聴者の番組への飢餓感、そしてその解消のためにケーブル復帰を望む声を高めようとしているように見える。
 有利に事を進めているように見えるTWCも実は苦しいのかもしれない。以前のエントリーで記したように、ケーブルテレビ契約者は減り続け、いまや「コードカット」という言い方が定着しつつある。人々にケーブル離れを起こさせている主要因は上がり続ける契約料だが、その多くは今回火種になっているような各チャンネルへの高すぎる配信料に起因するのである。いずれにせよ、今回の事件の被害者はCBSとTWC間の金儲けのための争いに翻弄される多くの視聴者である。どのような形で決着がつくのか、注視したいと思う。

11:08:28
 1年前のBLOGOSの記事「ガラパゴスリモコンの終焉」などでなんとなくは知っていたのだが、本当にアメリカではブルーレイディスク(BD)レコーダーが販売されていない。家電量販店で探していると、最初はSonyやPanasonic、Samsungのものでも$100以下で売られているので、「売ってるじゃないか。しかもこんなに安く」と思ったのだが、よく見てみるとそれらは全てBDプレーヤーで、録画機能のない再生専用機だった。
 実は僕は日本ではBDレコーダーのヘビーユーザーだった。なぜかと言うと、テレビ番組を講義の資料として使うことが多かったからである。毎日いくつかのニュース番組・情報番組を予約録画し、夜に全てチェックし、講義で使えそうな部分があればそこだけをハードディスクに残しておいて、ある程度溜まったところでディスクにコピーするという作業を大学に勤務するようになってからずっと日課として続けてきた。
 もちろん現在アメリカでは講義を担当していないので、そのようなことをする必要はないのだが、日本の家電量販店で重要なスペースを占めるBDレコーダーがアメリカの店で全く売られていない様子を実際に目にすると、驚きを禁じ得なかった。では、なぜ日本では相当な需要があるBDレコーダーがアメリカでは売られていないのだろうか。
 まず、そもそも番組を録画するという習慣がないのかという点を考えてみたい。アメリカは放送済み番組のネット配信がかなり定着していて、多くの番組がネットで視聴可能である。NBC、ABCなどのネットワークのサイトに行けば、ネットで視聴可能な番組がずらっと揃っているし、「シンジケーション番組」と呼ばれる、ネットワークを超えて各局に販売される番組も各番組のサイトへ行けば、視聴可能である。キー局のサイトへ行っても、ほとんど番組を視聴できない日本とはこの点で大きな差がある。
 しかもアメリカの場合、Huluなどのビデオストリーミング・サービスにも各ネットワークから相当量の番組が集まっていて、無料で視聴することができる(有料会員$7.99もあり)。鳴り物入りで始まった日本のHulu(一律有料980円)に、肝心の日本国内のテレビ番組が揃っていないのとは全く対照的である。アメリカのように正規の番組配信サイトが充実していれば、「別にわざわざ録画しなくても、見逃したテレビ番組はネットでいつでも見られる」という考えに至っても不思議ではない。さらに、多くの世帯が加入しているケーブルテレビや衛星放送のチャンネルで人気番組の再放送を目にする機会も多いので、テレビ番組のプレミアム感、つまり「ここで見逃したら一生見られないかもしれない」という感覚は相対的に少なくなるはずである。このようにアメリカと日本では、リアルタイム視聴できなかった番組のその後の視聴機会が大きく異なるので、視聴者の番組録画に対するモチベーションは違っていて当然のようにも思える。
 やや話はそれるが、番組のネット配信が薄利ビジネスなのは、アメリカのネットワークも日本のキー局も恐らく大差がないはずなのだが、「それでもやらなければ」と思うか、それとも「それならやらない」と思うか、なぜ違いが生じるのだろうか。もちろん両国間で権利処理や運用に違いがあることは確かだが、より根本的な部分で、常に競争に晒されてきたアメリカのネットワークと、護送船団方式で守られてきた日本のキー局では、危機感が違うように感じられる。
 さて、もともとアメリカでも日本同様、VCRで番組録画をすることは一般的だったのが、その後、DVDに移行する中でレコーダーが売られなくなったのは、上記のようなネットでの番組配信が盛んになったこととある程度、期を同じくしてはいると思う。ただ、それでもアメリカ人はテレビ番組を録画しないわけではない。では、BDレコーダーが売られていないのにどうやって録画するのだろうか?
 実はケーブルテレビの契約をすると、家に「セットトップボックス」というチューナーが届けられるのだが、追加料金を出せば、デジタルビデオ・レコーダー(DVR)機能を加えることができる。衛星放送の場合も同様で、DVR機能付のレシーバーがある。ケーブルの場合だと、標準画質100時間分のハードディスクで月$10.95なので特に安いわけではないと思うが、利用者は多いようで、ニールセンによるとDVRの普及率は2007年5月の17%から2012年5月の43%に伸びてきている。我が家も利用しているのだが、日本で使っていたBDレコーダーに比べてリモコン操作の感度が悪かったり、画面が見づらいという不満はあるが、特に使えないわけではないし、人によっては、ネットで検索して番組視聴するよりも、こちらの方が楽かもしれない。こういったサービスがあるからBDレコーダーが市販されていないのか、それともBDレコーダーが市販されていないからこういったサービスが存在するのかは不明だが、いずれにせよ、テレビ番組を録画するという行為は多少なりともアメリカ人も行っているのである。
 ただしDVRで番組は録画できるものの、ハードディスクからディスクにコピーする機能はない。日本ではコンビニでも売ってるようなBDやDVDといったディスクも、アメリカではあまり売られていない。つまり日米のテレビ視聴者間にテレビ番組の扱いに違いがあるとすれば、「番組を録画する・しない」ではなく、「録画した番組をディスクにコピーする・しない」という点にある。
 実際にはアメリカだけじゃなくて、世界的に見てもBDレコーダーは売られておらず、ディスクへコピーするという行為はあまり行われていないようだ。ただし、日本のユーザーがディスクにコピーする理由は、先にあげたBLOGOSの記事にあるように、見たい番組をいつでも見られることが保証されておらず、コンテンツを手元に所有する必要性があるという理由だけでもないだろう。むしろ、そういうことをするのが好きな国民性もあるような気がする。番組をコピーしたディスクに、ネットでダウンロードした番組タイトルのラベルを綺麗にプリントして、ずらっと揃えるコレクター精神って、日本人に特有な感じがするのである。従って、仮に今後、日本でテレビ番組のネット配信が進んだとしても、案外、コンテンツをコピーしたディスクを蒐集する人は減らないのではないかと思う。

09:32:04
 この春から在外研究の機会を得て、ニューヨーク大学で客員研究員を務めている。僕にとっては7年ぶりのアメリカ生活で、様々な面で変化に驚くことが多いのだが、その1つにテレビ環境がある。よく知られているようにアメリカはケーブルテレビの普及が進んだ国で、実際、日本のように屋根にアンテナが乱立しているような光景を目にすることはほとんどない。2012年のケーブルテレビ契約世帯は全体の60%ほどである。しかし、10年くらい前は70%を超えていたから、ここ10年くらいでケーブルテレビ離れが進んでいることがわかる。アメリカのメディア状況から遠ざかっていたので、ちょっとした驚きである。
 ケーブルテレビの落ち込みは、個人的に感慨深い。2000年代初頭、僕はアメリカの大学院に籍を置き、ケーブルテレビと番組の多様性をテーマに修士論文を書いた。変化の乏しい日本のテレビ放送産業と違って、アメリカのそれは非常にダイナミックなものに思えたが、ケーブル会社はその中心に位置していた。ケーブル会社の影響力の大きさは日本では想像しにくいものだが、アメリカでは地上波放送を行っているネットワーク(NBCやABCなど)でさえ、多くの人は再送信されたものをケーブル経由で視聴しているように、テレビ局の視聴者へのリーチはケーブル会社が握っているといってもいい状況が進んでいた。
 重要だと思うのは、地上波ネットワーク以外に数多くのケーブルチャンネルを家庭に届けるケーブルテレビが、アメリカのテレビにおける「番組の多様性」を実現してきたという点である。チャンネルをザッピングしていると、高尚なものから低俗なものまで様々な内容の番組が、そして時には英語以外の言語も流れてきて、なんとなくアメリカという国そのものを体現しているようにも思えた。実は、アメリカの地上波ネットワークも日本の地上波放送同様、横並び志向が強く、それぞれの時間帯に各局が似たような番組ばかり放送しているのだが、それに飽き足りない多くのアメリカの家庭では、有料のケーブルテレビと契約することが定着してきた。実際、何十チャンネルもあれば、自分の好みに合うチャンネルが1つくらいあるものだし(ケーブルチャンネルの中にはかなりターゲットを絞ったものが多い)、しかもケーブルチャンネルの多くは専門チャンネルだから、「自分の好きなタイプの番組を1日中放送している」という満足も得られる。カネを払って見たいものを得るのは、恐らく多くのアメリカ人にとっては当然の感覚なのだろうと思う。
 その一方で、アメリカのケーブルテレビは常に批判に晒されてきた。資本関係に基づく特定ケーブルチャンネルの扱い(同資本のものを囲い込み、他資本のものを冷遇)とか、サービスの悪さ(工事約束時間や請求額の間違い、苦情電話をかけても通じない等)とか問題は色々指摘されてきたが、最も批判の対象となるのは料金である。実際に今回、あらためてケーブル会社と契約して高すぎると思った。
 我が家の場合、ニューヨーク周辺一帯をフランチャイズにするケーブル会社・ケーブルビジョンと契約をしたのだが、バリューパック(地上波ネットワーク+ケーブルチャンネル70くらい)に月$40.05、ケーブル・セットトップボックスとリモコンに月$6.95、そしてオプションのTV Japanに月$24.95で、計$71.95を毎月テレビ視聴に払うことになる。なお、ケーブルビジョンとはテレビ以外に電話およびインターネットの契約もしているので(いわゆる「トリプルプレイ」)、毎月の支払いは$126.80(税別)になる。
 アメリカのケーブル料金は、かねてから消費者物価指数の上昇率以上と揶揄されていたのだが、さらに高騰している印象で、先述のように最近ではケーブル契約世帯数は減ってきているし、Cord cutとかCord neversなどのタームもよく使われている。では、ケーブル契約を打ち切った人たちはどのようにテレビ視聴をするのだろうか。
 1つは、ケーブルテレビ以外の多チャンネルメディアへの切り替えである。ケーブル会社は各地域で事実上の独占的フランチャイズ権を与えられており、消費者がケーブル会社を選択できるケースは稀である。しかし、以前と大きく異なるのは、ケーブルテレビ同様に何十~百のチャンネルを提供してくれるメディアが他に存在する点だ。具体的には衛星放送やIPTVである。実際に、2000年中盤からケーブルテレビ契約世帯が減り始めても、多チャンネルメディア契約世帯が増え続けていたのは、衛星放送やIPTVへスイッチする世帯が多いことの証左だろうし、2009年から2012年までのメディア別契約世帯数増減を見ても、ケーブル(MSO)の1人負けがよくわかる。
 その一方で、2012年にはそれまで右肩上がりだったものが初めて減少したとして、今後も多チャンネルメディア契約世帯数が減り続けることを予測するリポートもある。。多チャンネルメディアに契約して何十~百チャンネルが視聴可能でも、現実問題として常時見るのは4~5チャンネルくらいなものだろう。そのいくつかのチャンネルのために月に何十ドルも払っていたわけだが、今日のようにNetflixとかHuluなどの動画ストリーミングでコンテンツ単体にアクセスできるようになると、消費者にとってテレビチャンネルのバンドリング(何十ものチャンネルを1つのパッケージにして売る手法)はいかにも費用対効果が悪い。あるユーザーの「1番組を見るためにケーブルパッケージ契約するのは1曲聴くためにCDを買うようなもの」というコメントを目にしたが、もっともな意見である。また、ロングテールを実現した動画ストリーミングサービスの隆盛とともに、多様性に関する議論も影をひそめた感がある。
 近年、日本でも「テレビ離れ」が指摘されるように、見たいものだけを選択的に見るのは万国共通の視聴者願望なのだろうが、さらにアメリカの場合だと「見たくないものにまでなぜ金を払わなければならないのか」という気分が広まりつつあるのかもしれない。今後アメリカでケーブルテレビのみならず、多チャンネルメディア離れが加速するのか注視したいと思う。それと同時に、動画ストリーミングサービスの充実はおろか、多チャンネルメディアの普及状況でさえ先進国最低レベルの日本は、テレビ番組コンテンツの視聴環境としては間違いなく、アメリカの2周遅れぐらいになっているわけで、そちらも改善を期待したい。

プロフィール

大場吾郎

Author:大場吾郎
大学教員であり、メディア研究者。専門は映像メディア産業論やコンテンツビジネス。元々は某キー局勤務。
Twitter:@obagoro

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